ヨルの探偵Ⅰ
外に出て、すぐ路地裏の暗さに溶け込んだ。
薄汚いゴミまみれの細い路地を足を止めることなく歩き、監視カメラがないことを確認してから大きく息を吐いて拳を振り上げた。
「──……っ、ふざけんな」
ふざけんな、あの女。
コンクリートの壁を殴る。力の弱い私ではどうにもならないけど、外壁が崩れてぼろぼろの壁だったせいか手の甲が血塗れだ。
でも、不思議と痛みを感じない。それより脳が沸騰してるみたいに熱い。
表情管理が上手くできない。どうやっても胸糞悪い話が頭から離れない。マリカこそが、全ての元凶で、事の発端だ。
「……はぁ、落ち着こ。無意味だ」
今、喚き散らしても無意味。
どういうつもりでマリカが子供を違法に買い、何が目的かはまだ定かじゃない。
前に調べた情報では、莉桜くんの母親はもう死んでいる。水商売で過労とアルコール中毒が原因とされてるけど……あ? 水商売? 繋がりはここ?
それはあとで調べよう。で、母親が死んだ後、莉桜くんはマリカの元に行っている。どういう経緯かはわからない。
「子供が作れない。綺麗な子供を育てたい。特殊な性癖がある。……色々か」
まてまて、莉桜くんは……女装させられていた。
男の子を女装させたい性癖でもあるのかもしれない。
莉桜くんは中性的で綺麗な顔立ち。線も細くて化粧映えする華やかなイメージだ。千尋くんも、話によると美少年といった可愛い感じらしい。
んー、推測の域を出ない。マリカは子供が欲しいようにはみえなかった。千尋くんのことをペットと例えていたり、まるで所有物みたいな──?
「────だれ」
微かに感じた気配。
返事はないか。仕方ない。
背後からの気配に振り向かず、私は手首に隠してたある物を取り出す。
────────シュッ。
ナイフが空を掠った。