ヨルの探偵Ⅰ


 隙をついて投げようとしたけど、背後に迫っていた気配にナイフの矛先を変えられてしまう。

 けどナイフはブラフだから、ブーツの先に仕込んでる本命の鉄板で蹴りあげるつもり──だった。

 相手の顔を、ちゃんと見るまでは。


「…………なにしてんの、怜央さん」


 銀色の髪に、金色の瞳。

 先祖返りのような日本人離れした容姿は、背も非常に高く体格もしっかりしている。金色の瞳が夜に浮かぶように輝いてるが、表情に変化はない。

 いい偶然か、悪い偶然か。


「通りかかっただけだ。……夜」

「男装してるから白夜って偽名使ってるけど、今はヨルでいいよ」

「わかった。だから、足下ろせ」

「はー、危なく鉄板入りブーツで蹴りあげちゃうとこだったよ。焦ったー」


 いやうそ。焦ったりはしてないけど。

 軽く笑うと、怜央さんはいくらか眉間のシワを増やした。恭の無表情とは些か異なる無表情だ。説明が難しい。

 恭の無表情が哀愁と我慢とマイペースさ故のものだとしたら、怜央さんは元々硬派な上に動揺見せない隙を作らないための無表情な気がする。

 でも、名前をなんて呼ぼうか迷って〝夜〟と呼ぶあたり悪い人ではないね。


「で、何の用?」

「その男装はなんだ」

「お仕事中だよお。そちらはオフらしいけど、路地裏散歩中ですか?」

「手、なんで怪我してる」

「ぱーんち! て、壁をパーンってしたからかな」


 ラフな格好の怜央さんはお仕事が休みなのだろう。ま、休みだとしてもこの路地を通るのは賢明とは言えない。

 褒める点は、私の質問に一言も答えず、私から答えを引き出したとこだ。

 手を隠そうと背中に持っていくけど、金色の瞳で言動を追われて無駄に終わる。


「手当てするから来い」

「仕事中って言ってんじゃん? いいよこれくらい」

「危機管理くらいしろ」


 そう言われて、思わずむっと唇が尖る。

 子供扱いされてるようでむず痒い。あの人に会ってるときと同じ既視感だ。やめてほしい。

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