ヨルの探偵Ⅰ


 結果、数秒悩んだ怜央さんは無言でついてくることを決めたようで「どこに向かう」と低く問う。

 丁寧に答える時間がない。チャンスは多くあるわけじゃないし、計画通りに事が全て上手くいく確証もない。先に準備しないと。


「残念、時間がないんだよね。向かうのは、峯岸組の管理してる賭博場。今からするのは、〝交渉〟だよ」

「何の仕事だ」

「それは後で。ちなみに、君の弟が手を出したのが峯岸組だから無関係じゃないよ」

「アイツ……。そうか」


 丁度通り掛かったタクシーに乗り込んで、賭博場のある路地に車を停めてもらうよう説明する。

 お金を最初に多く渡して急いでもらう。こうすると急いでもらえるから、世渡り上手になるように上手にお金を活用しようね。

 タクシーの中で、詳細は話さずにざっと大まかな流れだけ簡潔的に話す。

 それだけで意図を汲んだのか一言「手伝えることは」と聞いてこられたから「用心棒かな」と返した。相手はヤクザなんだけどね。


「ヤクザって言っても、怜央さんも面識のある誠桜会の下っ端チンピラ。峯岸組の若衆と兵頭 伊織が何かしら取り引きしてた」

「内容は」

「bs以外にないでしょ。莉桜くんを標的にしてたけど、詳細は不明」

「手間掛けて悪いな」

「仕事だから気にしないし」


 兄として負い目は多少あるのか、ほんの少し声に申し訳なさが混じっている。

 それを気にしてないと本気でぶった切りながら、目的地に着いてタクシーから降りた。時間は49分。ちょっと焦る。

 細い路地を歩き、賭博場の裏口の手前で止まった。スマホを取り出してケーブルを繋げる。急いで監視カメラをハッキングして乗っ取り、サーバーに忍び込んでセキュリティデータを書き換えた。


「何分?」

「56分だ」

「おっけーい。余裕」


 一時的な書き換えと乗っ取り。リスクはある。

 紗夜にしてもらうことも考えたけど、時間もなければ足跡でバレる可能性もあったから、自ら出向いてリスクを負うことに決めた。

 ケーブルを急いでしまい、スマホを閉まって「行くよ」と怖い顔してる怜央さんに言う。


「鉢合わせたらどうすんだ」

「23時きっかりに裏口から入って、正面から右の通路を真っ直ぐ、左に曲がってすぐの右にあるドアが目的地。監視カメラはハッキングしてるから姿は映らない。警備員のルートも時間も把握してる」

「なるほどな。計画は完璧か」

「そうとも限らない。今回は時間とのタイムアタックだし、不測の事態は結構起きる」


 だから23時きっかりなんだよん。


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