ヨルの探偵Ⅰ
時計の針が11を指さした。
私たちは何食わぬ顔で裏口を開け、これまた何食わぬ顔で無駄な動きをせず目的地まで向かう。早くても遅くても駄目。
警備員たちの会話も盗聴してるけど回線が弱いな。イヤホンで薄ら聞き取れる程度だ。
「……おい、足音がする」
「まずいね、後ろからだ。急ごう」
「目的地には飛び込んでいいのか」
「うん、声出そうとしたら手荒にしていい」
背後からの足跡に急いで角を曲がる。
本当は一人でやろうと思ってたけど、武力100みたいな味方がいるからちょびっと安心。頼りにしてる節はある。
私の言葉に頷いた怜央さんに満足して、目的地着いた。
音は立てず、迅速に。
「……っ! なんだ……、ゔっ」
「はいはい、お邪魔するよん」
ドアを開けたと同時、気づいた弟が目を丸くして声を上げようとしたが怜央さんが口を片手で鷲掴み、腕を捻りあげた。
呻き声を上げて抵抗をすぐやめた男に、自然と口角が上がる。
コツン、とわざと足音を立て一歩近付き、男の顔を覗き込んだ。人畜無害の笑みを貼り付けて「お話があります」と一言告げる。
男は観念に似た様子で警戒心を解いた。
「もういいよ、腕離してあげて」
「……いいのか」
「この人ね、実はやり手。何を話されるか目処が立ってるんじゃないかな」
「──……」
まだ警戒してる怜央さんだが、私の言葉通りゆっくり腕を離す。
男は掴まれていた方の腕を少し摩ったあと「何が目的でしょうか」と淡々と言い放った。
ほらね、わかってる。しかも潔い。
「それはソファーでお話しましょう。取って食うみたいな真似はしませんよ」
「……では、失礼して」
「あはっ、礼儀のいいヤクザですね」
小馬鹿にしたような返しにも動じない。
スクエアメガネをかけてる取っ付きにくいインテリっぽい雰囲気の男。奥二重の暗い瞳と、細く横に結ばれた血色のない唇。ゾンビみたい。
でも、頭は相当切れる。出し抜かれたのは、周りが馬鹿すぎるせいかもしれないなぁ。