ヨルの探偵Ⅰ
不法侵入してる側を、されてる側がもてなしてるような空気。意味がわからなそうな怜央さんが、気配を鋭くしたまま私の横に座った。
お互いに警戒心は多少あるものの、一触即発という感じではない。むしろ落ち着いている。
私は様子見といったように、対面に座った男に目を向けた。
「……話は横領の件ですか」
「おや、話がはやいね。そうですよ」
「横領?」
「彼は、賭博場の売上を横領してたんだよねぇ。経理担当だからバレずに結構長い間」
何も知らない怜央さんに説明すると、苦虫を噛み潰したように男は笑った。
そんな顔しなくても、いい話を持ってきただけなのに。
絶体絶命の男を前に、私は首を傾けて笑った。
「……私は、消されるんでしょうか」
「ん? あははっ、まさか! 美味しい話を持ってきてあげたんだよ」
「美味しい話?」
前のめりになり、太腿に肘をつく。両手を組んで顎を乗せた。
脅されるか、消されるか。諦めかけていたとこに吉報が舞い込んでくるんだから混乱もするよね。
男は意味がわからないと細い目を瞬きさせる。怜央さんもどういうことかと話の行き先を見守っていて、私は言葉を続けた。
「峯岸組組長側近で経理担当の古林 はじめさん。
────寝返ってくれません?」
数秒の沈黙が流れ「「……は?」」と2人の声が重なる。予想してた反応でなによりだよ。
古林 はじめより早くに意味を問いかけてきたのは、隣にいた怜央さんだ。「どういうことだ」と静かに説明を求めてきた。
「言葉のまんまだよ。頭も切れる、お金も作れる、なのにポジションは長年変わらない憐れなヤクザさんに仲間を売ってくれって言ってる」
「……正気ですか」
「もちろん。どっちみち貴方に拒否権はない。断われば横領をばらす」
「貴方たちは、何者です?」
ようやく、私たちが何者かを気になった古林 はじめが怯えたように聞いてくる。
脅してもないのに、これじゃ悪役みたい。
組んでた足を下ろして、ソファーの背凭れに背中を落とした。ふかふかでいい塩梅に眠気が襲ってくる危ない危ない。