ヨルの探偵Ⅰ
背中を起こして「都市伝説、知ってる?」と唐突に問いかけてみると、古林 はじめは話の意図がわからないまま頷いた。
「いいね。トイレの花子さんに口裂け女。
────あっ、そうだ。夜の探偵屋はご存知かな?」
目を細めて笑うと、スクエアメガネを奥で眉をひそめて「はい」と小さく古林 はじめが答える。
何がしたいんだと言わんばかりの視線を向けてくる隣の怜央さんをガン無視しながら、一応時間も気にしつつ、「どう思う?」と問いかけた。
「不確かな存在でありながら、影響力があるものだと思います」
「貴方は頼ろうと思わないの?」
「曖昧なものに自分の人生を左右されたくありません。所詮は、不透明な存在です」
うん、コイツで間違いなかった。
怯えてるくせに、自身の考えをはっきりと述べる姿勢が気に入った。今もビクビクしているが、私から視線は外さない。
言葉選びもいいね。不確かなで不透明。影響力。それに加えて、自分は左右されないという明確な意志。
自信のある笑みを浮かべたまま、「なるほど」と返し、そろそろ幕間にしようと時間を確認した。
「夜の探偵屋には、ヨルっていう探偵がいるって知ってた?」
「その存在も、証明しようがありません」
「ふふ、あはは」
最高だよ。
いきなり笑いだした私に、古林 はじめは困惑した顔で見てくるが、気にせずひとしきり笑って目尻に溜まった涙を指で掬う。
「あの、これ何の話ですか?」と本題に戻ってくれと遠回しに伝えてきた古林 はじめに、「そうだね」と返しつつ、また足を組んだ。
蠱惑的に首を傾げて、両手を編む。
「おい」
「……」
私が何を言おうとしたのか察した怜央さんが、横から確かめるように静止を掛けるが、それを笑顔で遮った。
すぅ、と小さく息を吸って。
私はオッドアイの瞳を瞬かせる。