ヨルの探偵Ⅰ
来た時と同じように裏口に向かい、誰とも会うことはなく賭博場を出た。
最後にしっかりと入念に痕跡を消して、バックアップで散々動いてくれてた紗夜たちに〈完了、不備なし〉と連絡を入れて一段落。
あー、まだ終わりじゃないけど。
やっと点と点を結べて、もやもやが解消された。
「はー、疲れたー。おつかれ怜央さん」
「俺は何もしてないが」
「用心棒で心強かったよ、私は非力だからさ」
襲いかかられても、されるがままはありえないけどね。
それでも常に気を張ってる状態より、楽に交渉できた気がする。何かあっても、隣にいてくれる人がいるって新鮮だからかな。
腕を上に伸ばしながら「うぅー」と声を出すと「なんの鳴き声だ」と馬鹿にされた。
「しっつれいだぞ! 人間の鳴き声だよ!」
「気味の悪い鳴き声だな」
「はあ〜〜? ムカつく〜〜〜!!!」
「ふ、元気か」
なんなのっっ!!!
細い路地に影を伸ばしながら、私は不貞腐れる。会って2度目なのに第一印象と全然違う! 色んな意味でやりづらいしムカつく!
ドスドスと地面を勢いよく踏んで憤りを露わにするけど、当の本人は「何してんだ?」と哀れな様子で見てくるから怒りは倍増。
髪の毛ぐちゃぐちゃにしてやる!
「ふぬー!」
「背伸びしても小さいな。小人か?」
「私は平均身長!! しゃがめ巨人! 縮ませてやる!」
「目、オッドアイなんだな」
「────……」
油断した。忘れてた。
背伸びして顔を近づけていたのが悪かった。思い出したように淡々と口にした怜央さんに、一瞬で冷水をかけられた気分になる。
反射的に下を向いて、手で目を覆う。
いつもコンタクト付けっぱなしだし、暗くてわかりづらい上に今まで何も反応がなかったから気が抜けていた。
「目の色、言われんの嫌か」
「印象に残るのが嫌。反応もいちいちうざい。めんどくさい」
「綺麗な色だったけどな」
「……奇怪な目の色ですよー」
自嘲のような言葉が口をついて出る。
揶揄われたり子供扱いされたせいか、言い返してしまって空気が重くなった。