ヨルの探偵Ⅰ
おずおずと手を伸ばして、黒い塊の肩を叩く。
「あの……すみません踏んでしまって。お怪我はありませんか?」
「⋯⋯」
「ええ、もうお亡くなりに? はやくない?」
「……」
「起きてくれないかな〜。死の淵から生還してくれると、とっても有難いんですけど」
反応がない。屍のようだ。
うんともすんとも言わないし、立ち去ってしまっても問題はないはず。でも、もし見られていたら完全犯罪にはならない。
つまり、やるべきことは? 処理?
「やっぱりもうあの世か……。死体処理ってどうすればいいんだっけ……?」
「……誰が死体だ」
「ひょわっ!?!? 死体が喋った!?」
死体と認識した黒い塊が、突然低い声を発したせいで素っ頓狂な声が自身の口から飛び出た。挙句、尻もちもつく羽目になったので最悪。
ごそごそと動く黒い塊に、座り込んだまま後ずさる。
んー、明け方まで弟とやったゾンビのホラーゲームが現実世界でも起こってしまったような感覚。
隣でばかすかゾンビに銃弾を乱射、命中させていく真顔の弟に対して、私はコントローラーの使い方を知らず、一歩も前に進めない逃げられない、挙げ句の果てに序盤でゲームオーバー。
その対称的なその様子に、泊まりに来てた弟の友達から「姉と弟交代したほういんじゃね?」と屈辱的な言葉すらもらった。
それが昨日の話だ。まぁ、そんな話は置いといて。
「うわぁ〜……生きちゃってましたか。踏んでしまってすみません。それで、あの、お怪我は?」
「……ない。ただ寝てただけだ」
「…………」
地面で? この格好で?
あ、いけない。また顔に出てしまった──が、もちろん目の前の黒い塊には見えていない。
というか、まだその格好で喋るのか! と内心ツッコミつつ豚箱行きを免れたことに少し安堵した。