ヨルの探偵Ⅰ
こんなの、不測の事態だ。
上手くいってたのに、最後に崩されてぼろぼろ。落ち込んでしまう。慣れない金髪のウィッグを掻き上げて、小さくため息を吐いた。
「今のはなーし。忘れていいよ。帰ろ」
「俺の目は、アンバーのような金色だ」
「もういいって、慰めとか──」
「気持ちは理解できる、とだけ言っておく」
声のトーンはずっと一定なのに、月明かりに照らされてほんのり目視できる表情にはちょっとの優しさが含まれている。
慰めのつもりだとしても下手だ。究極に下手。
でも、その不器用な共感に、胸の奥に溜まったモヤがほんの僅かに晴れた。
表情が緩んで、ヨルじゃない月夜の笑顔が浮かぶ。
「……ちゃんと笑った顔、初めて見たな」
「あはは、じゃあレアだね。私も怜央さんの困った顔見れたからラッキーだし」
「ふっ、そうかもな」
視線を落として微笑んだ怜央さんに、大人の色気を感じた。
彼は、きっと弟思いの優しいお兄ちゃんなはず。
どうして、想いは交差して複雑になり、時に酷く残酷なものになるのだろう。
大切なものを想うこと。それが難しい。
「依頼は絶対に遂行する。でも、真実が時に嘘より残酷なことは理解して」
「わかってる」
くるり。180度回転して視界から外れた。
考えることは沢山ある。今回のは図らずしも一石三鳥で事が終わるが、疑問は残ってる。
峯岸組をぶっ潰せば、取り引きは無効。兵頭 伊織の思惑は露と消えるわけだがおかしい。莉桜くんが目的で、峯岸組と取り引き──?
マリカのことを知ってるんだとしたら、どこから情報を得ているのか。
そもそもこの展開、都合が良すぎる。
「……誰かの手引き?」
だとしたら厄介で面倒だ。
早急に解決すべき案件は3つ。その全てが、峯岸組とマリカに繋がってる。偶然だとしてもできすぎ。誰かが裏で手を引いているのは考えすぎだろうか。
悩みの種が増えて、頭が痛くなった。
それでも、後戻りはできない。