ヨルの探偵Ⅰ


 水無瀬家に到着。

 ドアを開けて5秒で後悔した。


「おはよ〜、月夜ちゃん? お邪魔してるよ〜。で? なにその怪我は?」

「月夜、その怪我どうした」

「おはよう、月夜ちゃん? ……ん?」

「おはよ、月夜。その手なに?」

「よる、手怪我してるな」


 朝から、全員集合かぁ。

 仁王立ちの蒼依くんに、目敏く手を掴んで怪我を気にする翔くん、笑って首を傾げた怖い目してる優介くんに普段通りだけど声が怖い莉桜くん、唯一遠くから声を掛けてきた恭。

 玄関から前に進めないまま、朝帰りと怪我について笑顔でなんとか誤魔化す。


「転んだんでーす」

「ふぅん、手の甲だけを? どうやって?」

「嘘です、ごめんなさーい。……壁殴りました」

「壁殴るって、何があったわけよ〜」


 ふざけた嘘を莉桜くんが真顔のまま問い詰めてくるから白状したものの、私がそういう行為をするのが驚きなのか蒼依くんが気になった様子で訳を聞いてくる。

 答えられるわけない。真顔の本人がそこにいる。

 「内緒」と言って、これ以上は深く聞かれないように靴を脱ぎ、彼等の横を通り過ぎてリビングに向かった。

 キッチンには、可愛い弟2人。


「朝陽〜! 虎珀くん! ただいまあ〜!」

「姉ちゃんおかえり、ひっつくのやめて」

「月姉おかえりっ!」


 2人まとめてぎゅーっと抱き締めると「苦しい」と嫌がられたけど、気にしないもんね。

 明け方、珍しく朝陽から連絡が来た。その連絡を見て、私はすぐ帰ることを決めたわけだけど。


〈今日の朝ごはんクレープ。帰ってくる?〉


 って、かわいすぎない? いじらしすぎない……?

 たった一言。帰ってきてほしいを言えない弟。今でも気を遣わせている事実に心が痛むけど、壁を全部取れないのにも理由がある。

 今も、朝陽は私の包帯を巻かれた手に視線を落としつつ、何も聞いてはこない。

 こんな姉で、ごめんね。

 普段通りを装う朝陽に眉を下げる。

 その光景をリビングに戻ってきた彼らが不思議そうに見てたことには気付かなかった。

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