ヨルの探偵Ⅰ


 ま、ピアス事情はさておき。

 スマホを確認したくて仕方ない。なるべく早急にと古林 はじめには言ってあるから、彼が今日中に場を整えてくれることもあり得る。

 彼は優秀だ。あの峯岸組が派手な稼ぎの仕方をしても警察からの追及を躱し続ける事が出来ていたのは、バカな連中の尻拭いを彼が引き受けていたからだ。

 上がとやかく言わないのも彼ありき。こんな笑い話はない。


「……月夜、ねぇ月夜ってば」

「ん? おお、莉桜くんなーにー?」

「何回も呼んだんだけど。……夏休み終わるけど課題終わったのって」

「ごめんごめ……終わってないね」


 莉桜くんから言われて、ハッとする。

 ここんとこ本当に忙しすぎて日にちの感覚がなかった。もはや夏休みということすら忘れていた。やりかけの課題の存在も忘れていた。

 もう残り5日もない夏休み。やばい。

 ふと顔を上げると、わかりやすく恭も蒼依くんも顔を背けていて、余計に頭を抱える羽目になる。


「まってまって、今回は私も終わってないから手伝えないよ。莉桜くんよろしく」

「むり。優介よろしく」

「さ、さすがに俺一人はちょっとな……。翔?」

「月夜が言うなら手伝うけど」


 可愛いね、翔くん。よろしく頼むよ。

 精一杯のあざとさでお願いと頼むと、翔くんは即答で了承してくれた。最近だいぶちょろいけど、大丈夫かな。

 隣で莉桜くんも「ちょっろ」って完全に馬鹿にした感じで言ってるよ。いいの?


「まぁ、とにかく今日中に終わらそうね」

「え〜、やる気出ねぇ〜。月夜ちゃんご褒美ちょうだいよ〜」

「3枚に下ろされたいの?」

「は〜い、やりま〜す」


 蒼依くんを睨んで黙らせつつ、これまたやる気のない恭の頭を引っぱたいてお勉強スタートです。

 水無瀬家の優秀な長男坊は既に課題を終わらせてるらしく、虎珀くんの残りの課題を見てあげてるから優しさが限界突破してる。可愛い。しかもいい子。

 シャーペン片手によしよしと褒めると「っ、なに」と上目遣いで見上げられた。可愛くてきゅん。

 しかし、横から「月夜もやんなよ」と莉桜くんに窘められて渋々数学のプリントと向き合う。

< 506 / 538 >

この作品をシェア

pagetop