ヨルの探偵Ⅰ
まだ帰る様子のない彼等を見遣る。
千尋くんの居場所がわかった今、すぐにでも駆けつけたいが、彼らを撒くのは大変だ。リビングに全員がいる状態でこっそり抜け出すのも至難の業。
「姉ちゃん、テーブル拭くから」
「おっと、ごめんよ」
「スマホ、通知きてるよ」
ダイニングテーブルで項垂れていたら、主夫な朝陽が後片付けするから退けろとのことで椅子に背を起こす。言われた通り通知も確認。
さっきの以外で何か……?
名前を確認すると、キャバ嬢イチゴちゃんのアイコンが出てきて、首を傾げた。
「────……は?」
書かれていたのは、衝撃的な内容。
私の低い声を彼等が聞き逃すわけもなく、莉桜くんが「どうしたの」と問いかけてくるけど答える余裕はない。
一瞬頭が真っ白になったが冷静装い、紗夜に転送して〈10分後〉と一言添えて送る。
同時に古林 はじめに〈10分後、計画を遂行する。逃げろ〉と送って立ち上がった。
「追ってこないで。ここから出ないで」
「は〜? 何言ってんのよ、そんなの許すわけ……」
「許す許さないじゃない。聞き入れないなら君らを脅すから」
鋭い眼差しを送れば、蒼依くんが言葉を詰まらせるように口を噤む。
明らかにおかしな様子を察した朝陽や虎珀くんは空気を読むように黙っていて、翔くんも同様に外から見守るに徹していた。
莉桜くんと優介くんは何か言いたげだったけど、遮るように恭が一歩前に出る。
「わかった。……ちゃんと、帰ってくるんだな?」
「うん、ちゃんと帰ってくる」
「ならいい。俺らは追わない」
「恭、ありがとう」
口角を上げて笑顔を見せると、王の決定に文句は言わないのか、これ以上引き止められることはなかった。
この状況でもなにも言ってこない朝陽の頭をくしゃりと撫でてから、リビング飛び出す。
急ぐ気持ちを抑えながら緊急事態用に置いてあったバイクに乗り、イチゴちゃんから送られてきた内容に唇を噛み締めた。
〈マリカ、お店飛んじゃった!〉
くそ、誰だ。
ありえない。勘がいいとかそういう話ではなくなった。
久々の運転は荒々しく、逸る気持ちを表してるようなもので、ヘルメットも制限速度も守らない状態だが周りを気にする余裕はなかった。