ヨルの探偵Ⅰ
ぐっと伸びをした黒い塊さんに困った視線を投げながら、もしや木のベンチに行くのが面倒になって地面で寝たものの、太陽が眩しくてチャックを頭まで閉めたとか? とか考えてみる。
けど、どう考えても可笑しい話に、そんなわけないよねと自己完結して私はさらりと口を開いた。
「あの、地面で寝てたら踏まれますよ。踏んだ私が言うのもあれなんですけど」
「あぁ、知ってる」
「……」
おっかしーな。会話が通じない予感。
言葉には出さず、どうせ見られていないとゲンナリした感情を顔に出してまた少し後ずさる。
会話が成立しない人間は苦手だ。だからもう帰っていいかなと立ち上がろうとしたところで、目の前の黒い塊がパーカーのチャックに手を掛けるから勢いのままその手を掴んだ。
顔見られるのは良くない。絶対良くない。
「あの〜、お願いが」
「なんだ?」
「そのチャック下ろすの、私が居なくなってからにしてくれませんか」
至極丁寧にお願いしてみたが、声だけで不機嫌だとわかるその様子にどうしようかと悩む。顔を見られてしまうのを避けたくて咄嗟に手を掴んでしまったけど、これでは私も逃げられない。
それと、これはただの勘。いつも当たってしまう嫌な勘な気がする。
視界に入った1つ上、3年生の証であるボロボロの上履き、手首ある青のブレスレット、いつしか聞いたことのある声のトーン。
この人は、関われば私の人生に厄介になる人だ。