ヨルの探偵Ⅰ


 やばいやばいやばい。と慌てふためく心の内を、目の前の黒い塊さんが知る訳もなく、チャックを下ろそうとするから私との攻防戦が幕を開けてしまった。

 うう、非力なのに……! 心の中で叫びながら、この場から平穏に逃げられる術を探す。

 しかし、今ここから走って逃げ出しても障害物がほとんどないため、どうやっても確実に顔が見られてしまう。詰みだ。


「おい、手ぇ邪魔だ。離せ」

「すとっぷ! まって! いいこと教えるから待って!」


 結局、力負けしそうになった私はいちかばちかに賭けることにした。

 片方の手で、ポケットからある1枚の紙を取り出してそれを2つに折って私の背後に置く。そしてゆっくり言葉を吐き出した。


「……夜の探偵屋、知ってますよね」

「あぁ、探してる」

「ですよね。そこで提案なんですけど、私の知り合いがその手の情報に詳しいんです。連絡先教えますんでこれで手を打ちましょう!」

「手っ取り早く、お前の顔見て情報聞いた方が早い」

「うっそー……」


 私、とってもいい妥協案をしなかった? そんな即答でぶった斬るとか酷くない?

 まさかの返答に焦るけど、何にせよこの攻防戦を続けるのはよくない。興味を持たれたら平和が遠ざかってしまい、面倒なことになるのが目に見えている。

 なので、力で押し負けられるわけにはいかない。

 気張るのだ、頑張れわたし! 顔を見られたら終わり! ゲームオーバーだぞ!

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