ヨルの探偵Ⅰ
俺らの真面目な空気に、茶化す雰囲気でないとわかったのか女はゆっくりと息を吐いて、その色香のある唇を開く。
「うん。実在してるし、場所も知ってる」
「──っ、そ、れっ!」
がたっ、と席を立ったのが悪かった。
周りの客が何事かとざわめいて、定員さんもチラチラと様子を窺ってきて、感情的になってしまったと俺は衝動を抑えて腰を下ろす。
俺ほどではないにしても、優介も優しいだけの雰囲気ではない。
ピリついた雰囲気に、彼女はわざとらしく大袈裟にため息を吐いた。
「そう躍起になるのはいいけど、注意散漫だよ」
「頼むから、場所教えてくれないかな。連絡先だけでもいい」
「断る」
「……っ、何でかな? 理由は?」
断ると言われ、思わず優介も戸惑いを見せる。
俺も、落ち着くなんてできる訳もなく、女相手だとわかっていても視線が鋭くなってしまってどうしようもなかった。
なんで駄目なのか。その理由を、黙って待つ。
そして、言われた答えに息を飲んだ。
「────君たちは、対価を持ってない。何もかも差し出すつもりで、実は何も差し出せないのと同じ」
冷静なトーンで話され、核心をつかれたようで誰もが口を閉じた。
諭されるように出された言葉に、ただ俺達は耳を澄ませる。