ヨルの探偵Ⅰ
あれだけ曖昧な回りくどい言い方をする彼女が、今は何故か断言するように話す。
「君たちは、大事なものが失われそうな時、悪魔にでもなってもいいって思ってるよね? でも、それは違うよ。……人から堕ちたら、大事なものすら分かんなくなるからね」
言ってることが、じんわりと頭に染みる。吸水性のいいスポンジのように、どんどん彼女の口から放たれた言葉を吸収していく。
途端、頭が冷えた気がした。
そうだ。何度も間違えた。夜の探偵屋というキーワードだけで盲目になって、なにも見えず失敗してきた。
だからか。
だから、俺たちじゃ見つけられないのか。
「……俺たちは、君と信頼関係を築いて向き合えばいいってことかな」
「それは個々で解釈してもらって構わないけど。時間は有限であって無限だから」
「やっぱあんた賢い」
「ふふ、でしょ」
あぁ、この子は天真爛漫って言葉がぴったりじゃねぇの。
危なっかしくて、少し不思議で、賢い美人な女。
「────声掛けて、やっぱ正解だわ」
俺の意見がコロコロ変わるってぇ?
まぁ、そういう日もある。何せ疲れてるから。