ヨルの探偵Ⅰ
デザートまでしっかり食べて、笑顔で席を立った彼女は、「あ、忘れてた」となにか思い出したように俺ら全員をぐるりと見渡す。
そして、フッ、と妖艶な表情を向けた。
心臓が、微かに揺れる。
「私の名前は、
────水無瀬 月夜。どうぞよろしく?」
水無瀬 月夜。
微笑んで挑発的な表情をする彼女に、なにかが大きく変わる気がした。人目を引くのは容姿ではなく、奇想天外で危うい彼女の人柄だ。
──夜、ね。じんわりと頭の中を侵食していく名前に無意識に笑みが浮かぶ。
誰かがその名前を反芻するように「月夜」と呟いていて、何故だか彼女にピッタリな名前だと思った。
「これからよろしくなあ〜、月夜ちゃん」
「よろしくね、水無瀬さん」
「よろしく、月夜」
「………………よろしく」
「……よる」
相変わらず丁寧な優介に、珍しく押しの強い翔、落第点の莉桜に、読めない恭。そして1枚仮面を取り払った俺。
彼女が笑顔の裏に隠した画策なんて露知らず、俺らは、彼女の手を取った。
この出会いが、運命になるなんて。
────まだ未熟で、無知な俺らは知ることはなかった。
end.