ヨルの探偵Ⅰ
なけなしの良心でいい提案をしたのにばっさり切り捨てられたことも不服だし、これはもう脅すのがいいんじゃない? どう? って私の中の悪魔ちゃんが囁いた。
そして、脅す内容まで教えてくれる悪魔さんに気持ちが傾いていく。ちなみに、私の中に天使はいない。
結論。よし、脅そう! に至った悪魔の誘惑に負けた私は、見えてないはずの目の前の黒い塊さんににっこりと微笑んで、口を開いた。
「じゃあ、ここで誰かに聞こえるほどの悲鳴あげますね」
「……あ?」
低く、不機嫌な声が耳を刺す。
私の返答が不満だったのか、圧のある空気を出され、舐めんなよと口角を上がった。
「そうすれば、何かあったと駆けつけた人は、どちらの言葉を信じると思います?」
「……なんだ、そのチンケな脅しは」
「あれ、停学は困りますよね? それに夜の探偵屋についての情報もゼロになりますよ」
「……」
今までの素行のおかげでこんな粗雑な脅しが通用しちゃうんだから、彼はとても哀れ。私はラッキー。
ま、兎にも角にもこれは喧嘩売ってるも同然の行為。
顔を見られたくないからって、ここまでする必要があるのかという葛藤は無きにしも非ずだけど、ここまできたら貫き通すしかない。
今の状態、私には頗るまずいのだ。
逃げさえすれば勝ちだと「私の後ろにメモ、置いてるので」と言い残して、ゆっくり手を離す。