ヨルの探偵Ⅰ
◇
ダウンライトが仄暗い2人の影を映し出す。
喉が焼けそうになるほど強いアルコールを口に含んだ私は、グラスの縁を指先で拭った。
それを見た愉しげで鈴のような声が頭上から声が降ってくるから、婉容に笑って視線を合わせる。
「上手くいったネ、ヨル」
「そうだねぇ、煩い鼠は袋の中でくたばるよ」
「ヨルは怖いコトばかり言う」
「嘘つけ、乗り気だったくせに」
チェシャ猫のように愉快だと口元を歪めたマレくんに、ほんとに調子のいい愉快犯だなと呆れた。
バーカウンターで対面するような形で会話をする私たち。
ゆっくりと視線を上げた私に、くんっと近寄って距離を縮めたマレくんが蠱惑的に囁いた。
「黒羽組組長サン、刑事の杜サン、同時に片付いてヨカッタネ」
「今回はラッキーだったよ」
唇があと数センチのところで会話しながら、お互いにくすくすと笑い合う。
ペロッと私の唇を舐めたマレくんから距離をとって、甘ったるいウイスキーボンボンを味わった。
そんな私を見て、マレくんはわざとらしくコテン、 と頭を傾ける。
「ヨルってば、何だか上の空ナノ? 欲求不満?」
「……べっつにぃ。私は純情で誠実だから、マレくんと一緒にしないでよね」
「アハハハハ! ヨルがピュアとかウソだね!」
「失礼だなぁ、マレくん。私、嘘なんてついてないよ」
マレくんと話してると性に関する倫理観が狂うな。
実際、お堅い女というレッテルも嫌だけど軽いわけでもない。でもすぐ襲って押し倒してくるマレくんとは天と地の差だ。
けれど、マレくんは何度もウソだと口にする。
そろそろ不機嫌になっちゃうぞ、と口を尖らせた時、不意に嘘だと言った意味が理解できた。
「もしかして、彼等のこと言ってる?」
「ソウダヨ〜! ヨルってば、説明がデタラメすぎてウソだらけだったヨ」
「ふふっ、まぁそれは嘘かもねぇ」
言葉の意図を理解した私は、悪気なく認める。
そして、数時間前、彼等に説明した話を記憶から掘り起こした。