ヨルの探偵Ⅰ



 ダウンライトが仄暗い2人の影を映し出す。

 喉が焼けそうになるほど強いアルコールを口に含んだ私は、グラスの縁を指先で拭った。

 それを見た愉しげで鈴のような声が頭上から声が降ってくるから、婉容に笑って視線を合わせる。


「上手くいったネ、ヨル」

「そうだねぇ、煩い鼠は袋の中でくたばるよ」

「ヨルは怖いコトばかり言う」

「嘘つけ、乗り気だったくせに」


 チェシャ猫のように愉快だと口元を歪めたマレくんに、ほんとに調子のいい愉快犯だなと呆れた。

 バーカウンターで対面するような形で会話をする私たち。

 ゆっくりと視線を上げた私に、くんっと近寄って距離を縮めたマレくんが蠱惑的に囁いた。


「黒羽組組長サン、刑事の(もり)サン、同時に片付いてヨカッタネ」

「今回はラッキーだったよ」


 唇があと数センチのところで会話しながら、お互いにくすくすと笑い合う。

 ペロッと私の唇を舐めたマレくんから距離をとって、甘ったるいウイスキーボンボンを味わった。

 そんな私を見て、マレくんはわざとらしくコテン、 と頭を傾ける。


「ヨルってば、何だか上の空ナノ? 欲求不満?」

「……べっつにぃ。私は純情で誠実だから、マレくんと一緒にしないでよね」

「アハハハハ! ヨルがピュアとかウソだね!」

「失礼だなぁ、マレくん。私、嘘なんてついてないよ」


 マレくんと話してると性に関する倫理観が狂うな。

 実際、お堅い女というレッテルも嫌だけど軽いわけでもない。でもすぐ襲って押し倒してくるマレくんとは天と地の差だ。

 けれど、マレくんは何度もウソだと口にする。

 そろそろ不機嫌になっちゃうぞ、と口を尖らせた時、不意に嘘だと言った意味が理解できた。


「もしかして、彼等のこと言ってる?」

「ソウダヨ〜! ヨルってば、説明がデタラメすぎてウソだらけだったヨ」

「ふふっ、まぁそれは嘘かもねぇ」


 言葉の意図を理解した私は、悪気なく認める。

 そして、数時間前、彼等に説明した話を記憶から掘り起こした。

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