ヨルの探偵Ⅰ
反論しようにも、急に酔いが回ってきて頭が働かない。
「(……まただ)」
マレくんと飲むと、気づけば高確率で酔っている。というか酔わされている。
やめて、と言葉でなく手で制止しようとするも、逆にその手を掴まれ、マレくんの手が後頭部に回った。
まずい、と思う暇もなく、強く引かれて唇が重なる。
「ん、ぅっ」
「もっと口開けテ〜、ボクとアソボ」
息継ぎする間もない口付けに、抵抗できずに下から睨みあげる。
睨んだところでダメージはないけど、このままではマレくんのペースに乗せられると必死に抵抗した。
なに急にサカってきてるんだこのお馬鹿さんは!
そう内心怒り狂いながらも、身体は正直だ。力が末端から抜けていく。
もうむりと眉を寄せ、マレくんを至近距離で睨むと限界を見計らったように唇が離れた。
つーっと互いの口を唾液が引く。私で遊ぶように唇をぺろっと舐めてから離れたマレくんが、にやにやした顔で笑うから、もう一度睥睨した。
「えっち! 馬鹿マレくん!」
「ご馳走デシタ」
「ごちそうさまでしたじゃないっ、んんッ! ちょっと、もう! 跡つけたでしょ!」
勝手にキスマークを付けたマレくんを睨みつけながら、距離を取る。油断も隙もない。
鬱血痕を付けられたはずの首元を両手で押さえながら、後ずさりしてマレくんに「シャーッ!」と威嚇した。
「警戒するヨルもカワイイネ〜、食べちゃいたいヨ」
「やだ! もう帰る!」
これ以上ここにいたら本当に食べられかねない。可愛い顔して鬼畜性欲魔人なんだから……。
「ホントに帰るノ? バイバーイ」と気ままな音色を響かせるマレくんを無視してBARを出た。静まり返ってる路地裏に疑問が溶けていく。
「なんで、いつも口で勝てなんだろ」
もう3時半を回った深夜の時間帯。不満を口にして夜空に浮かぶ三日月を見上げながら路地裏を抜けた。
勝てないのはいつものことだけど。
私だってよく口が回る方なのに。マレくんにだけはいつも勝てない。悔しい。