ヨルの探偵Ⅰ


 ツンデレ黒猫とまだ子犬のゴールデンレトリバーみたいだ。寝てる2人の寝顔を見ながら、自然と笑みが浮かんだ。

 その2人の姿を、音が出ないよう無音のシャッターで写真に収めて保存する。
 
 ずっとこのまま何も分からない子供でいてくれたらいいのに、と混沌した感情が入り混じって、そのままリビングを出た。

 真っ暗な廊下に佇んで、家主不在の無駄に広く部屋数の多い家にため息を零し、そろそろ帰ってきてくれていいじゃんとぼやく。

 何ヶ月も姿を見てない。


「どこで何してるんだか」


 検討はつくけど、無意味だからやめた方がいいって忠告したのにな。

 ズルズルと壁に背を預けてしゃがみこむ。ひんやりとした廊下の冷たさを感じながら、あの日の情景が脳裏に浮かんで吐き気がした。

 血塗れで横たわる人たち、光る鋭いナイフ、顔が見えない憎いアイツ。


「いっそ……」


 出かけた言葉を飲み込む。

 口に出してしまっては終わりだから。物語の終焉にはまだ程遠い。私は誰のものでもなければ、誰の操り人形でも、都合のいいものでもない。

 誰かの思惑通りに動くのは、ごめんだ。

 ぎゅ、っと拳に力が入る。

 忘れかけた感情に見ないふりをして、愚かな私は夢の世界に飛び込んだ。

< 87 / 538 >

この作品をシェア

pagetop