ヨルの探偵Ⅰ
動く様子のない目の前の黒い塊さんに、脅しが成功をしたことをホッとしつつ、ゆっくり立ち上がってスカートに付いた砂を叩いて落とした。
「じゃ、機会があれば来世で!」
「……」
「ばいばいきんっ」
無言が逆に怖くて、その後は言い逃げのように全力疾走で校舎の中に逃げ帰った。
精一杯のフルスピードで校舎に戻り、後ろを向いて確認すると追い掛けてくる様子はない。どうやら私の勝ちみたいだ。ようやく肩の力が抜ける。
「あっぶなー……」
ひとり、誰にも聞こえない声を漏らした。
この学校で、知らない人がいないくらい悪い意味で有名な彼等の中の一人。
特に、顔が見えなくてもわかる漂う王様のようなオーラは彼等が望む王の姿そのものだったに違いない。
気圧されそうな雰囲気とは裏腹に、のほほんとしたマイペースな性格は否めなかったが、もう関わることはないはず。
「できれば二度と会いたくないなぁ、どっちでも」
彼等が、夜の探偵屋に辿り着かなければいい。
そんな私の思いとは反対のことを、誰かが口にしていたなんて知る由もなく。
今日の夜に備えて夢現の世界に手を伸ばした時には、運命の歯車は回ってしまっていた。