離婚後、全てを失った私が、あの財閥御曹司に溺愛されるまで

第6話 鋭い彼と無様な私

冷たい風が吹き抜ける山道で、私は首をすくめ、心の中で一人泣いていた。
「もう、何もない。奪われるものなんて、もう…。」

その時、急に数台の登山用自転車が駆け上がってきて、私たちの前でピタリと停まった。
先頭にいる男は、片足で自転車を支えながら、私を一瞥した後、私にかけられた服を見て、にやりと笑った。

「宗介、お前、天性のモテ男だな。こんな辺鄙な山の中でも、美人に遭遇なんて」
その言葉に、隣の男が足で前輪を軽く蹴った。

「目が見えてないのか?」

その一言で、その男はもう一度私をじっくり見直し、私の血まみれの足を見て、目を大きく見開いた。
「これは…一体どうしたんだ?」

その時、遠くから車のライトが近づいてきて、ゆっくりとUターンし、私たちの前で停車した。

運転席から降りてきたのは、スーツをびしっと着こなした30代くらいの男性。
そばにいた男が運転席に乗り込み、さっきの「モテ男」発言の男はようやく気づいたのか、宗介に向かって怒鳴った。

「宗介、お前、一緒に帰るって言ったのに、こっそり車を呼ぶなんて。」

宗介は窓を開け、煙草の吸い殻を投げ捨て、満足げに微笑んだ。
「疲れたから、翔太、お前がみんなを連れて帰れ。」

そのまま、私に視線を向けると、軽く言った。
「まだそこにいる気か?」

私は慌てて車に駆け寄り、助手席のドアを開けようとしたが、足を上げる時にちょっと躊躇してしまった。
車内は驚くほど清潔で、私の血まみれの足が車を汚すのが怖かったからだ。
宗介は眉をひそめ、軽くハンドルを叩きながら、少し苛立たしげに見えた。

私は迷った末に車に乗り込んだ。
座らずに足を閉じたままだ。少しでも動かしたら、汚れてしまうと思うから。
しかし、車が突然動き出し、私はそのまま後ろに倒れ込んで、座ってしまった。

顔が赤くなり、すぐに宗介を見た。
「ご、ごめんなさい。洗車代、私が払います。」

彼は微笑み、低く甘い笑い声を漏らした。
「うちの車の洗車は一回10万円だよ。もし頑固な汚れがついたら、追加料金がかかる。」

頑固な汚れと言われ、私は思わず彼の視線を感じた。
彼の目が私の足に注がれていたからだ。

「10万円?普通の洗車ならせいぜい4000円くらいだろう?それが10万円なんて…!」

ただし、彼の車は悠人の車とは比べ物にならないくらい高級そうだ。洗車代にタクシー代を合わせても、10万円は高くないかもしれない。

でも、私はお金を一銭も持っていない。唯一持っているのはスマホだけ。

「今、お金がないんです。でも、もし信じてくれるなら、番号をメモして、後で送ります。」

スマホを取り出して番号を入力しようとしたが、すでに電源が切れていた。
無理に電源を入れ、番号を記録しながら、彼に名前を尋ねると、彼は「桐生宗介」と答えた。

番号を保存した瞬間、数十通のメッセージが届いた。それはすべて結衣からのものだった。
結衣が心配していると、急いで電話をかけたが、通話が始まる前にスマホが完全に電池切れになり、画面が真っ黒になった。

「番号、覚えているか?」彼は自分のスマホを渡して、私に言った。

私はうなずき、彼のスマホを受け取って電話をかけた。
結衣は見知らぬ番号を見て、少し警戒しつつ電話に出た。

「もしもし?」
「結衣、私だよ。」私は小さな声で言った。

結衣はすぐに
「洋子、どこにいるの?何かあったの?さっき電話があったからおかしいと思って家に行ったけど、いなかった。どこにいるの?電話も取らないし、すぐに電源も切って!もう心配でどうしようもない!」

結衣の心配してくれる声を聞いた途端、私は涙が止まらなくなった。
涙を拭きながら、声を詰まらせて言った。
「大丈夫、私は美瑛町にいる。」

「どうしてそんなところに?旦那さんと一緒にいるの?」
「うん。」

「おかしいよ。妊娠しているのに、どうしてこんなところに連れてきたの?気をつけなきゃダメよ。」

子供のことを思い出した途端、私は耐えきれず、口を押さえて電話を切った。

桐生宗介は、恐らく私の電話の内容を聞いていたのでしょう。
私の腹部と血まみれの足に目を向け、深く眉をひそめた。

彼の鋭い眼差しは、私がどんな状況にあるのかを見透かしているように感じられた。

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