異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 帰る場所さえなければ、養い庇護してくれる大人にすら心当たりがないのだ。
 この状態で神殿から放り出されてしまえば、聖女見習いとして養父の厳しい躾に耐える日々よりも苦しい経験をするだろう。

「あたしには、五月雨 雲母(さみだれ きらら)って名前があるんだけど……!」
「サミダレ様!」
「ち、違う! 雲母が名前だってば!」
「では、キララ様! これより、我々の元で聖女として、ご活躍頂けますね?」

 キララが頷けば、その瞬間からロルティは用無しだ。

(これから、どうしよう……)

 彼らに追い出される前に自ら必要なものを持って逃げ出すか、着の身着のままの状態で放り出されるか。
 幸いにも、ロルティには考える時間があった。

(何が正解かなんて、わからないけど……)

 神官達は突如現れた聖女キララに夢中だ。

 ここにじっと黙って立っているより、こっそり抜け出した方がよっぽど有意義だろう。
 どうせ大人達の指示を待っていたところで、彼らの口にする答えなどわかりきっているのだから。

(今までありがとう)

 心の中で神官達に感謝を伝えたロルティはこっそり、神殿の大広間から抜け出そうとした。
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