異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 まだ幼い子どもに伝えても、無意味でしかないと思ったのだろう。
 それか一生神殿から出られない少女に希望を無責任に抱かせるのは、あまりよくないことだと考えたのか……。

(やっぱりカイブルも、わたしと一緒に神殿を抜け出せばよかったのに)

 ロルティにとってジェナロは、自称父親でしかないが――。

 カイブルは自身の身を危険に晒してまでも彼女を助けてくれた、信頼できる人だ。
 彼が太鼓判を押してくれたら、ロルティは目の前で自分を抱きしめてくれる父親が本物か偽物かを決めかね、頭を悩ませる必要はなかった。

(むむぅ……)

 唇を噛み締め不機嫌そうに眉間へ皺を寄せたロルティは、彼の真意を探るために再びジェナロの瞳をじっと見つめた。

 神殿で聖なる力を高めるための訓練と称して、養父からさまざまな虐待に限りなく近い暴行を受けてきたのだ。
 神官達の私利私欲に揉まれた特徴的な視線は、何度も目にして記憶している。

 ――ロルティは同年代の子どもより、かなり警戒心が強かった。

 表向きはジェナロを父親だと認めたような態度を見せているが、心の奥底ではまだ信じきれていない。
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