異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
(2人は仲が悪いのかな……?)

 まさかロルティを巡って争っているなど知りもしない彼女は見当違いな不安に襲われ、声を張り上げた。

「パパ! おにいしゃま! 喧嘩しちゃ、めっ!」

 2人の仲裁に入った娘が叱りつければ、そのかわいらしさにやられた兄が口元を抑えて目元を綻ばせた。

「ロルティ……。ほんと、かわいい……」
「おい、ジュロド。ロルティをペット扱いするな」
「父さんだって、心の中ではそう思っているくせに」
「な……」
「素直に言葉に出せない大人は、嫌われるよ?」
「ジュロド……!」

 どうやら父親よりも、兄の方が1枚上手のようだ。

 娘に頼りがいのある親だと思われたいジェナロが彼女を猫かわいがりしたい気持ちをぐっと堪えているのが仇になった瞬間だった。
 父親に怒鳴りつけられたジュロドは満面の笑顔を浮かべると、妹に明るい声で告げる。

「あはは! 行こう、ロルティ! 今日からは、兄妹一緒の部屋で暮らすんだよ!」

 ジュロドはロルティが心の中で兄を警戒しているなど露知らず、右手を引っ張った。

(パパとうさぎしゃん、置いて行ってもよかったのかなぁ……?)

 彼女はチラチラと後ろを振り返って父親に止めなくていいのかと目線で訴えかける。

「旦那様」
「ああ……」

 使用人らしき男性に話しかけられていたジェナロはロルティが自身を見つめていることに気づいて、ひらひらと手を振った。

 どうやら、問題ないらしい。

 彼女は屋敷の内部を物珍しそうに眺めながら、これから暮らす部屋へ向かった。
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