異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 彼女はまだジェナロの隣で、笑顔を浮かべていたかもしれないのに――。

 彼の身勝手な気持ちを直前で受け止めきれないと悟った彼女は、結婚式の直前で姿を消した。

『なぜだ……!』

 公爵の仕事など、手につくわけがない。
 深い悲しみに包まれたジェナロは、死にもの狂いで彼女の行方を探した。

 やっと幸せな日々が訪れると、信じて疑っていなかった。
 今度こそ大切に慈しみ、離れていかないように溺愛しようと決めた。

 その矢先のことだったからだろうか。

『彼女はここにはいない』

 彼は僅かな手がかりを頼りに訪れた場所でそう見知らぬ男女に宣言されるたびに、心をすり減らしていった。

『酷い顔ですね。まるで死人みたいです。公爵家の当主なんですから! 笑顔を心掛けましょう!』

 ジェナロは必死に彼女と過ごした楽しかった思い出を脳裏に思い浮かべ、必死に耐える。

『やっと彼女の、引き取り手が来たか……』

 愛する人と再会できたのは、彼女と別れてから3年後。
 物言わぬ躯となった彼女が土の中へ埋められ、骨になってからのことだ。
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