異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
「ご、ごめんね。うさぎしゃん! 痛くなかったでしょ?」
「きゅう……むきゅ……」
「父さん。あとどれくらい?」
「半分だな」
「機嫌、直して? このまんマジゃ、中途半端だよ……!」

 ジェナロによって上から順番にもふもふとした毛を刈り取られているアンゴラウサギは、ちょうど真ん中でツートンになっている。

 見栄えも悪く、このままでは外に連れていけない。

「全体を切ってもらって、かわいくなろう……?」
「むきゅ……」
「ねぇ、パパ! うさぎしゃんに、ご褒美をあげてもいいかなぁ!?」
「ああ。なんでも言いなさい」
「あのね。お揃いのおリボンか、お洋服がほしいの!」

 嫌なことをやり遂げたあとにいいことがあれば、アンゴラウサギもきっと耐えられるはずだと考えたのだろう。

 瞳をキラキラと輝かせた愛娘の姿を目にした父親は、左手で眩しそうに目元を多いながら了承した。

「ああ。構わん」
「やったー! うさぎしゃんが、あとちょっと頑張ったら! わたしとお揃いだよ!」
「むきゅ……?」
「えぇ……。いいなぁ。僕もロルティと一緒のものが欲しい」
「これが終わったら、全員で買い物に行けばいいだけの話だろう」
「みんなで!?」
「むきゅ……」

 ロルティはアンゴラウサギが大きい声を苦手としているのをすっかり忘れて、父親に聞き返してしまった。
 彼女は慌てて獣を落ち着かせるために、毛刈りを終えて短くなった上半身を撫で付ける。
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