異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
「ロルティが来てから、父さんは変わったよね……」
「そうなの?」
「うん。すごく表情豊かになって、情けなくなった」
「自分のことを棚に上げ、俺の好感度を下げようとするなど……我が息子ながらいい度胸だな……」

 ジュロドが呆れたように父親に告げれば、親子は視線を合わせるとバチバチと火花を散らした。

 大好きな妹と娘には、彼女がいなかった時の姿は知られたくなかったようだ。

(わたしがいなかった頃のパパとおにいしゃまって、どんな感じだったんだろ……?)

 ロルティは少しだけ興味があったが、今この場で2人に問いかける勇気はなかった。
 どうせ喧嘩を始めるに決まっているからだ。

(わたしも神殿で暮らしてた時のことは、あんまりお話したくないもん……)

 悲しい過去よりも楽しい今だけを見つめるべきだと考えたロルティは、父親に話しかけたくても声をかけられない空気を醸し出しているせいで困惑しているメイドに視線を移した。

「メイドしゃん? どうしたの?」
「お、お嬢様……。ウサギの毛で糸を紡ぐと聞き、下準備のご用意をしてきたのですが……」
「うさぎしゃんと、お揃い!」
「……それは一体、どう言う……」

 話を聞きつけ急遽呼ばれたメイドには、ロルティがなぜこれほどテンションが上がっているのか理解できないのだろう。
 お湯を張ったたらいを手に持ったまま、気まずそうにしている。
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