異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 ――幼子と使用人。

 2人の会話が始まっていることを知ったジェナロは、露骨に眉を顰めて不機嫌になりながらメイドに告げた。

「君は俺とロルティに、指示を出すだけでいい」
「しょ、承知いたしました」

 それは「貴様如きが気安く俺の愛娘に声をかけるな」と言っているようなものだ。

 旦那様の機嫌を損ねたと怯えるメイドは、顔を真っ青にすると不思議そうに首を傾げるロルティから距離を取り、たらいを床の上に置いた。

「この工程は、2日間に分けて行います」
「はーい!」
「まずは刈り取った毛を、この中に浸してください」
「したす?」
「こうやって、入れるんだよ」
「おおー!」

 単語の意味がわからず首を傾げたロルティへ手本を見せるかのように、ジュロドがふわふわの刈り取ったアンゴラウサギの毛をたらいの中に張ったお湯の中へ浸す。

「わたしも! うさぎしゃんの毛、お風呂に入れる!」
「うん。やってみて」
「はーい! ぶくぶくぶく~」

 兄から促された妹は、両手いっぱいに毛を抱え込むと、勢いよくたらいの中にそれらを沈めた。

 ぷくぷくと泡が水面に浮かぶのが楽しくて仕方がないのか、ロルティは大はしゃぎして喜んでいる。
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