異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
「ロルティ。濡れたままはよくない。着替えて来い」
「お出かけはー?」
「ああ。パパと一緒に、街へ行こう!」
「やったー!」

 ロルティは壁際に控えていたメイド達とともに勢いよく別室へ移動すると、初めて袖を通すドレスに身を包み、再び父と兄の元へ姿を見せた。

「パパ! おにいしゃま! 見てー!」
「な、なんて愛らしいんだ……!」

 童話に出てくるお姫様のようなプリンセスラインのドレスは、ジェナロの心に大駄目ージを与えたようだ。
 心臓を押さえて蹲る父親に、ロルティは不思議そうに彼を見上げる。

「パパ? どこか悪いの?」
「違うよ、ロルティ。父さんは娘がかわいすぎて、言葉も出ないんだって」
「わたし、かわいい?」
「うん。とってもよく似合ってるよ」
「えへへ! よかったぁ~!」
「むきゅ……」

 彼女が嬉しそうにニコニコと満面の笑みを浮かべれば、自分の存在を忘れてもらっては困るとすっかり毛刈りを終えてさっぱりとしたアンゴラウサギがか細い声を上げた。
 ロルティはキョロキョロとあたりを見渡し、いつの間にか隅っこでちょこりんと目を瞑る獣の元へと向かった。

「うさぎしゃん! お買い物、ほんとに行かないの?」
「むきゅう……」

 ロルティに問いかけられたアンゴラウサギは、いやいやと左右に小さな身体を振って外へ出ることを拒否した。

(うさぎしゃんだけを残していくのは、不安だよ……)

 飼い主は何がなんでも獣と一緒に外出したかったが、本人が乗り気じゃないのならばどうにもならない。

 ロルティの瞳には、じんわりと涙が滲んだ。
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