異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 カイブルは悲しそうに眉を伏せながら、ロルティと目線を合わせるためにその場でしゃがみ込み、彼女へ言い聞かせた。

「見習い聖女様は、1人ではありません」
「でも……」
「神殿の外にさえ出れば、たくさんの愛をその身へ注がれることになるでしょう」
「そんなの、いらない!」

 ロルティは何度も首を振って、ワンピースの裾を握りしめながら叫ぶ。

「カイブルが一緒じゃなきゃ、やだ……!」

 涙でグシャグシャになった彼女の姿に心を痛めた彼は、首元にぶら下げていたネックレスの留め金を外し、ロルティの首に掛けてくれる。

「ふえ……?」
「再会した際に、お返しください」

 その小さな瞳から大粒の涙を流していた彼女が不思議そうにカイブルを見上げれば、彼は優しく微笑みながらロルティと新たな約束をした。
 彼女は自身の首元に掛けられたネックレスをじっと見つめたあと、小さく頷き元気な声を発する。

「わかった! また会おうね! 絶対だよ!」
「はい。見習い聖女様。どうか、お元気で……」

 ロルティは先程まで涙を流していたのが嘘のような屈託のない笑顔を浮かべると、カイブルにブンブンと手を振ってから勢いよく小さな穴へと飛び込んだ。

(今度会った時は、絶対に名前を呼ばせて見せるんだから!)

 ロルティは遠くに見える微かな光へ導かれるように、必死に小さな身体を動かして外へ向かった。
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