異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
「パパ……。帰ろ……!」
「……ロルティ? どうした。誰かに何か――」
「早く……っ」

 血相を変えて不安そうな表情で聞き返してくる父親に「なんでもない」と言い返す心の余裕すらない。
 あっと言う間に堪えていた涙が頬を伝って、ジェナロの服を濡らした。

「わかった」

 彼は尋常ではない愛娘の様子を目にしたからだろう。
 急いで馬車の中へロルティを乗せると扉を閉め、御者に命令する。

「出せ」
「ハイヤー!」

 掛け声とともに馬の身体へ鞭が叩かれ、馬車はガタゴトと音を立ててゆっくりと動き出す。

(やっぱり、カイブルはわたしの味方だって、信じてたのに……)

 ロルティは父親の腕に抱かれながらカイブルのことを想い、馬車が公爵邸の前につくまで眠りの国へと意識を手放した。

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