異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 ジェナロはそんな息子の視線から逃れるように、子ども達から背を見向けた。

「おにいしゃまは? うさぎしゃんと、仲良しできた?」
「僕はできたと思っているけど……こればかりは、ね。どうかな。相手がいることだから……」
「うさぎしゃん! どうだった?」
「むきゅ……」

 ベッドの上で大人しくしていたアンゴラウサギは、ロルティに問いかけられた瞬間もそもそと身体を揺らしてロルティと視線を合わせた。

 赤い瞳が潤んでいるように見えるあたり、獣は兄と仲良くなったとは思えていないようだ。

(初めておにいしゃまと、ふたりきりでお留守番したんだもん。仕方ないよね)

 そう心の中で納得したロルティは父親にベッドの上へ降ろしてもらうため、バタバタと両足を動かしてアピールする。
 ジェナロはその行動だけで愛娘の言いたいことをきっちりと読み取り、ロルティを望み通りの場所へ離した。

「うさぎしゃん! ただいまー!」
「むきゅ……」

 やっと触れ合うことができたと彼女が喜べば、腕の中で獣も安心したように目を閉じ、嬉しそうな鳴き声を上げる。

(カイブルと出会ったのは、夢だったのかな……?)

 ロルティは馬車の中で抱いた悲しい気持ちが嘘のように、穏やかな感情を胸に頂きながら。

(……うん。もう、忘れよう)

 毛刈りをしたばかりで短くなったアンゴラウサギの毛がチクチクと腕や微に刺さる痛みにくすぐったさを感じつつ、一家団欒の時間を楽しく過ごした。
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