この恋は演技

エピローグ

 ゴールデンウィーク、紗奈と悠吾の姿は都内にあった。
 当初はゴールデンウィークの休みを利用して慶一に会いに行く予定を立てていたが、再び日本を離れる前に香里と大介が結婚式を挙げることになり、そちらの予定を優勢させてもらった。
 慶一とは、夏休みにゆっくり会う約束をしている。
「いい式だな」
 大介がかつて働いていたレストランを貸し切ってのささやかな披露宴の帰り道、紗奈と手をつないで歩く悠吾が言う。
「はい。心のこもった式でした」
 先ほどの披露宴での光景を思い出し、紗奈が応える。
 それほど広い店でもないので、招待客は限られていた。
 親しい人たちに祝福されて、香里も大介も本当には幸せそうにしていた。仲睦まじく寄り添うふたりの姿に、香里の両親も涙ぐんでいた。
「次は俺たちだな」
 悠吾は繋いでいる紗奈の手を揺らして「少し待たせてしまうことになるが」と申し訳なさそうに付け足す。
 あの日の宣言通り、恭太郎は週明けに引責辞任を表明にした。
 後任に悠吾が名乗り出ることに、ある程度の反対意見を覚悟していたのだけど、悠吾の人柄に信頼を寄せる社員が多くいて、彼の社長就任を後押ししてくれている。
 それには、昌史の尽力のおかげもあるのだろう。
 結果、悠吾は古賀建設の社長に就任するための最終調整に忙しくしている。
「無理に式を挙げなくてもいいですよ」
 紗奈としては、彼とこうして一緒にいられるだけで十分幸せなのだ。忙しいのに無理して式を挙げる必要はない。
「俺が、紗奈と結婚した実感がほしいんだ。俺たちの結婚は、いろいろ順番がおかしかったから」
「確かにそうですね」
 そう言って、紗奈は自分の左手薬指の指輪を確かめる。
 恋をする前にデートや結婚して、結婚生活を送る中でお互いを愛するようになって、一番最後に指輪を贈り合った。
 自分たちはいろいろ奇妙な順番で夫婦になっていった。
「でも夫婦の形は、それぞれでいいんだと思いますよ。大事なのは、長い人生を一緒に歩んでいきたいと思える人に出会うことなんですから」
 香里や大介、悠吾の両親の姿を思い出してしみじみ言う。
 彼の両親は、一緒に長野に移り住むことを決めて、ゆるやかな夫婦になっていこうとしている。
「悪いが俺は、そんなにのんきな性格をしていない」
「え?」
「俺は紗奈と過ごす時間全てを大事にしたいと思っている。初めてのデート、パーティーでの毅然とした君の言葉、ひとつひとつの素敵な思い出を作りながら一緒に歳を重ねていきたいんだ」
 そして歳を取ったら、時々そんな思い出を振り返って笑い合う夫婦でいたいと彼は言う。
「悠吾さん」
「そんな素敵な思い出のために、可愛い奥さんのウエディングドレスの姿も欠かせない」
 そう言って手の甲に口付けされれば、紗奈に断る理由はない。
「思い出に残る素敵な結婚式を挙げよう」
「はい」
 彼の言葉に頷き、紗奈は悠吾と手を繋いで歩いた。
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