野いちご源氏物語 第一巻 桐壺(きりつぼ)
そのころ、朝鮮半島の辺りから外国人が何人か来ていたの。
人相占い——相手の顔立ちから性格や将来を当てる占いが得意な人も来ていた。
帝は皇子を占わせたいとお思いになったけれど、内裏のなかで外国人にお顔を見せることはできない決まりがあったので、皇子の方を人相占い師がいる場所まで行かせることになさった。
皇子のお世話係をしている貴族の男性が、ご自分の子どものふりをして皇子を連れていかれたわ。
占い師は皇子を見ると驚いて、何度も首をかしげて不思議がった。
そして、
「帝になられるお顔立ちでいらっしゃいますが、しかしそうなれば国が乱れてしまうでしょう。では貴族として帝をお支えするご将来を考えてみますと、それもまた違うようなお顔立ちでございます」
と申し上げたわ。
皇子の父親のふりをした男性は物知りな学者でいらっしゃったから、占い師と興味深いお話をされていた。
中国の詩などをお互いに作りあって楽しんでいるとき、占い師は、
「まもなく帰国するという最後の最後に、このようなめずらしいお子様にお会いできてうれしいのですが、中途半端にお会いしたばかりに帰国したら思い出して悲しくなってしまうでしょう」
というような意味の上手な詩を作ったの。
皇子はそのお返事として、しみじみとしたよい詩をお作りになったわ。
占い師は皇子の詩をほめちぎって、すばらしい贈り物を差し上げた。帝からも占い師へ贈り物をたくさんされたそうよ。
皇子の人相占いのことは秘密にされていたのだけれど、噂が自然と広まったの。
東宮の祖父君、つまり弘徽殿の女御様の父君で右大臣をなさっている方は、
「帝はどんなお考えで桐壺の更衣の皇子に人相占いなど受けさせられたのだろう。何か裏があるのではないか」
と疑っていらっしゃった。
帝は以前から皇子のお顔立ちをご覧になって、占い師と同じようなことを思っていらっしゃったの。
「占い師もよく分かっているではないか」
とお思いになっていた。
帝はあるお考えがあったから、皇子に「親王」という一段上のご身分をお与えにならず、ただの皇子のままにしていらっしゃった。
つまりね、
「もし親王の身分にしたとしても、後見する親戚もいない。皇族や貴族たちから一人前の親王らしい扱いは受けられないであろう。世の中を不安定な状態でさまようことになってしまう。桐壺の更衣が遺した皇子をそのような目に遭わせるわけにはいかない。
私の寿命だって永遠ではないのだから、いっそ今のうちに皇族の身分を取り上げて、ただの貴族の一人にしてしまおう。天皇を支える側に回した方が、皇子の将来も確実で安心だろう」
というお考えが帝にはあった。
それからは皇子が将来立派に仕事ができるよう、いろいろな学問をお習わせになったわ。
皇子は本当に賢くていらっしゃって、ただの貴族にしてしまうのはもったいないくらいだった。
でも、だからこそよ。
それだけご優秀なのだから、もし親王のご身分におなりになったら、東宮の座を狙っているのではと世間は疑うに決まっているわ。
人相占いだけではなく星占いでも同じような結果が出たから、帝は桐壺の更衣の皇子を源氏——源という名字の貴族にすることをお決めになった。
人相占い——相手の顔立ちから性格や将来を当てる占いが得意な人も来ていた。
帝は皇子を占わせたいとお思いになったけれど、内裏のなかで外国人にお顔を見せることはできない決まりがあったので、皇子の方を人相占い師がいる場所まで行かせることになさった。
皇子のお世話係をしている貴族の男性が、ご自分の子どものふりをして皇子を連れていかれたわ。
占い師は皇子を見ると驚いて、何度も首をかしげて不思議がった。
そして、
「帝になられるお顔立ちでいらっしゃいますが、しかしそうなれば国が乱れてしまうでしょう。では貴族として帝をお支えするご将来を考えてみますと、それもまた違うようなお顔立ちでございます」
と申し上げたわ。
皇子の父親のふりをした男性は物知りな学者でいらっしゃったから、占い師と興味深いお話をされていた。
中国の詩などをお互いに作りあって楽しんでいるとき、占い師は、
「まもなく帰国するという最後の最後に、このようなめずらしいお子様にお会いできてうれしいのですが、中途半端にお会いしたばかりに帰国したら思い出して悲しくなってしまうでしょう」
というような意味の上手な詩を作ったの。
皇子はそのお返事として、しみじみとしたよい詩をお作りになったわ。
占い師は皇子の詩をほめちぎって、すばらしい贈り物を差し上げた。帝からも占い師へ贈り物をたくさんされたそうよ。
皇子の人相占いのことは秘密にされていたのだけれど、噂が自然と広まったの。
東宮の祖父君、つまり弘徽殿の女御様の父君で右大臣をなさっている方は、
「帝はどんなお考えで桐壺の更衣の皇子に人相占いなど受けさせられたのだろう。何か裏があるのではないか」
と疑っていらっしゃった。
帝は以前から皇子のお顔立ちをご覧になって、占い師と同じようなことを思っていらっしゃったの。
「占い師もよく分かっているではないか」
とお思いになっていた。
帝はあるお考えがあったから、皇子に「親王」という一段上のご身分をお与えにならず、ただの皇子のままにしていらっしゃった。
つまりね、
「もし親王の身分にしたとしても、後見する親戚もいない。皇族や貴族たちから一人前の親王らしい扱いは受けられないであろう。世の中を不安定な状態でさまようことになってしまう。桐壺の更衣が遺した皇子をそのような目に遭わせるわけにはいかない。
私の寿命だって永遠ではないのだから、いっそ今のうちに皇族の身分を取り上げて、ただの貴族の一人にしてしまおう。天皇を支える側に回した方が、皇子の将来も確実で安心だろう」
というお考えが帝にはあった。
それからは皇子が将来立派に仕事ができるよう、いろいろな学問をお習わせになったわ。
皇子は本当に賢くていらっしゃって、ただの貴族にしてしまうのはもったいないくらいだった。
でも、だからこそよ。
それだけご優秀なのだから、もし親王のご身分におなりになったら、東宮の座を狙っているのではと世間は疑うに決まっているわ。
人相占いだけではなく星占いでも同じような結果が出たから、帝は桐壺の更衣の皇子を源氏——源という名字の貴族にすることをお決めになった。