野いちご源氏物語 第一巻 桐壺(きりつぼ)
この当時は、子が亡くなったとき親はお葬式(そうしき)参列(さんれつ)しないという決まりがあったの。

でも桐壺(きりつぼ)更衣(こうい)様の母君(ははぎみ)は、
「娘を火葬(かそう)する(けむり)とともに、私も煙になって消えてしまいたい。お葬式の行われるところへ私も連れていっておくれ」
と泣きながらおっしゃる。
そうして女房(にょうぼう)用の乗り物にご自分も乗ってしまわれたの。

もう厳粛(げんしゅく)儀式(ぎしき)が始まっているところへ母君はご到着なさった。
母君は、
「ご遺体(いたい)を見ただけでは、なんだか娘はまだ生きているような気がしてしまう。火葬して灰になったところまで見届けて現実を受け入れなければ」
なんてしっかりしたことをおっしゃっているけれど、乗り物から落ちそうなほどふらふらになっていらっしゃるの。
お供の人たちは(あん)(じょう)だとお思いになったでしょうね、お世話をするのも大変そうだったわ。

(みかど)からの公式なお手紙を持った使者(ししゃ)が、桐壺の更衣様のご実家にいらっしゃった。
お手紙には三位(さんみ)という高い(くらい)を亡き更衣様に(おく)ると書かれていて、使者がそれを読み上げるのだけれど、とても悲しい光景だったわ。

帝は、更衣様を女御(にょうご)のご身分(みぶん)にできなかったことを後悔(こうかい)していらっしゃって、せめて位を女御様たちと同じところまで上げてやろうと思われたのね。
それを悪く思う人も多かったみたいだけれど、ちょっと冷静にものを考えられる方たちは、桐壺の更衣様の容姿(ようし)がすばらしかったことや、性格が(おだ)やかで(にく)めない方でいらっしゃったことなどを思い出されていたわ。

帝があまりに夢中になってしまわれたせいで、人から嫌われることも多かったのよね。
帝の女房(にょうぼう)たちは、更衣様は情け深い方でいらっしゃったと恋しく思い出していたわ。
失って初めて気づくというやつね。
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