魔法学園の片隅で、先生に玉砕覚悟で告白したらプロポーズされました
「ご、誤魔化さないでよ、先生。神の聖なる愛を感じることさえできれば、もっと私の治癒魔法だって効果が上がるはずだもん。疑心に苛まれる人も、欲に目がくらむ人も、悲しみに打ちひしがれる人だってたくさんいる。ねぇ、本当に全ての禍は福に転じるためのものなの?」
もっと治癒魔法を使いこなせれば、一緒に行けたかもしれないのに。
強い魔術の使い手は、学生であっても招集される。私にとっては生きづらいこの世界で、先生の存在すら感じられない中、惰性で生きるよりも戦場へ赴きたい。
「俺や君が、確かにここに存在している。それこそが、神からの愛の証だろう?」
「でも、魔法大全の書では、神と悪魔は賭けをしているのよ? ヨブ記では、いわれなき災いを受けたヨブが神に理由を問うて、何様のつもりだと言われている」
「人間の常識で善とは限らない。それに、人もまた幸せであれば神を忘れ、悲惨であれば追い求める。それくらいでいい。光に近づきすぎれば、焼かれるんだ。大きな力なんて、持たなくていいんだよ」
「……だから、わざと分かりにくく教えているのね?」
そう聞くと、先生はしまったなという顔をして、空を見た。
まるで子守唄のように優しく、少し調子の外れた歌が、先生から紡ぎ出される。
世界に刻されし 天の力は
我々のために 時を刻む
その恩恵を享受し
心を捧げ 神に祈れ
深き叡智をまとう 神の愛の泉に
その身を浸せ
真理の源泉から湧く 聖なる水は
思いを鎮め 力を与える
世界への解釈を深めるヒントなのかもしれない。相変わらず分かりにくいけれど、その優しさだけは伝わってくる。
歌い終わると「まぁ頑張れや」と言って、懐から煙菓子を取り出した。
「ほら、食べるか?」
「食べるけど……」
大きなラムネ菓子のような色付きの煙菓子を、いつも先生は持っている。サラッと口の中で甘く溶けて、ふっと吹くと、まるで寒い日の白い息のように色のついた煙が周囲へと広がり、消えていく。
口の中に甘みを残して、虹よりも早くその色を消す煙菓子は、儚い恋にも似て……少し寂しくなる。
でも、私はそれを食べたくて、いつももらっているわけじゃない。先生から受け取る時に、わずかに手が触れることを期待しているからだ。
「ほい」
いつもより、しっかりと手渡された。
先生の温かい体温を一瞬だけ感じて、この時間が明日から失われることに涙が出そうになる。
包みを剥がすと、私の煙菓子の色はピンクだった。
「先生は何色だったの?」
「俺は赤だ」
二人同時に口の中に入れて、ふっと吹いた。赤とピンクが混じり合い立ち昇り……、そして消えていく。
どうしよう……そろそろ告白をしようかな。
そうしたら、きっと断られて……。
あと少しだけ、先生について聞いてからにしよう。
「光に近づきすぎて、焼かれた人を知っているの?」
「ああ、俺の生徒だった。神に恋をして、自滅した」
「神に、恋……?」
「そうだ。恋をするなら、人間にしておけ」
「すごいアドバイスね……」
今の話はしない方がよかったかもしれない。先生の顔が苦悶に歪んでしまった。
でも、告白する流れ、よね……。
私は神様になんて、恋をしないって。
先生が好きなんだって。
よしと息を呑むと、私は口を開いた。
もっと治癒魔法を使いこなせれば、一緒に行けたかもしれないのに。
強い魔術の使い手は、学生であっても招集される。私にとっては生きづらいこの世界で、先生の存在すら感じられない中、惰性で生きるよりも戦場へ赴きたい。
「俺や君が、確かにここに存在している。それこそが、神からの愛の証だろう?」
「でも、魔法大全の書では、神と悪魔は賭けをしているのよ? ヨブ記では、いわれなき災いを受けたヨブが神に理由を問うて、何様のつもりだと言われている」
「人間の常識で善とは限らない。それに、人もまた幸せであれば神を忘れ、悲惨であれば追い求める。それくらいでいい。光に近づきすぎれば、焼かれるんだ。大きな力なんて、持たなくていいんだよ」
「……だから、わざと分かりにくく教えているのね?」
そう聞くと、先生はしまったなという顔をして、空を見た。
まるで子守唄のように優しく、少し調子の外れた歌が、先生から紡ぎ出される。
世界に刻されし 天の力は
我々のために 時を刻む
その恩恵を享受し
心を捧げ 神に祈れ
深き叡智をまとう 神の愛の泉に
その身を浸せ
真理の源泉から湧く 聖なる水は
思いを鎮め 力を与える
世界への解釈を深めるヒントなのかもしれない。相変わらず分かりにくいけれど、その優しさだけは伝わってくる。
歌い終わると「まぁ頑張れや」と言って、懐から煙菓子を取り出した。
「ほら、食べるか?」
「食べるけど……」
大きなラムネ菓子のような色付きの煙菓子を、いつも先生は持っている。サラッと口の中で甘く溶けて、ふっと吹くと、まるで寒い日の白い息のように色のついた煙が周囲へと広がり、消えていく。
口の中に甘みを残して、虹よりも早くその色を消す煙菓子は、儚い恋にも似て……少し寂しくなる。
でも、私はそれを食べたくて、いつももらっているわけじゃない。先生から受け取る時に、わずかに手が触れることを期待しているからだ。
「ほい」
いつもより、しっかりと手渡された。
先生の温かい体温を一瞬だけ感じて、この時間が明日から失われることに涙が出そうになる。
包みを剥がすと、私の煙菓子の色はピンクだった。
「先生は何色だったの?」
「俺は赤だ」
二人同時に口の中に入れて、ふっと吹いた。赤とピンクが混じり合い立ち昇り……、そして消えていく。
どうしよう……そろそろ告白をしようかな。
そうしたら、きっと断られて……。
あと少しだけ、先生について聞いてからにしよう。
「光に近づきすぎて、焼かれた人を知っているの?」
「ああ、俺の生徒だった。神に恋をして、自滅した」
「神に、恋……?」
「そうだ。恋をするなら、人間にしておけ」
「すごいアドバイスね……」
今の話はしない方がよかったかもしれない。先生の顔が苦悶に歪んでしまった。
でも、告白する流れ、よね……。
私は神様になんて、恋をしないって。
先生が好きなんだって。
よしと息を呑むと、私は口を開いた。