魔法学園の片隅で、先生に玉砕覚悟で告白したらプロポーズされました
「先生、誓いのキスをして?」
「おま……」
「鐘の音が鳴り終わるまでの、魔法をかけて」

 背後は焼却炉の壁。
 先生に逃げ道はない。

「してくれないなら、しちゃうから」
「調子にのりすぎだろ。ほんっと、しょーがねー奴」

 ここは、誰にも知られない秘密の場所。
 きっと明日からはこの時間、誰も来ない。

 触れるだけのキスが、交わされる。
 先生の手が後頭部にまわって……そして、外された。

「……やっちまった……」
「そんなに落ち込まないでよ、先生」
「はー……、割れたら忘れろよ」
「先のことなんて、分からない!」
「――――ったく」

 予鈴が鳴り終わった。
 私たちの時間が終わる。
 戻らなければ――……ならない。

 ブローチが見つかって、没収されたり先生が怒られるのだけは避けないと。

「……よっと」
「はぁ? おま、ちょ、はぁ~~???」

 制服をたくし上げ、ブローチをつける。

「なんっで、そんなとこに……」
「だって、見つかったらまずいでしょ? ケースだけならともかく。ポケットに入れて落とすのも怖いし」
「本当に俺のこと、男だと思ってんのかな……先生だからって、人畜無害じゃねーんだけど」
「ブラジャーにつけておくのが、一番安全に決まっているじゃない。先生に襲ってもらう時間がなかったのだけが、残念ね」
「そうかいそうかい、あ〜最悪……記憶にずっと残りそうだ……」
「それは、脱いだ甲斐があったかな」
「……かなわんな……ほら、予鈴も鳴った。もう行け」
「……うん」

 この後はまた、先生と生徒に戻る。
 クラスの代表から花束贈呈なんかもあって……私はただ、それを見ているだけの一生徒になる。

「そういえば、先生特権ってヤツでお前の住所覚えてんかんな」
「……え?」
「学園に確認なんてしなくていい。お前の住所、…………だろ?」
「う、うん。合ってるけど」
「忘れていい。他の男と違う場所で暮らしていてもいい。でも戻ったら行くよ、必ず」
「……私が結婚適齢期だったら、すぐに結婚してくれる? 素敵なお嫁さんになれるように頑張るから」
「この、指輪の対になるやつをさ……、次はブローチじゃなくて指輪で買ってやる」
「その時は、ちゃんと私の左手の薬指にはめてね?」
「はいはい」

 スカートを揺らし、私だけが校舎へと戻る。
 きっと後から、なんでもない顔で来るのだろう。

 最後に背後から、聞き取れないくらいの小さな自嘲するような声が聞こえた。

「生徒にプロポーズしちまった……」

 プロポーズ……だったんだ?
 本当に分かりにくい先生なんだから。

 スカートを翻して後ろを振り返り、とびっきりの笑顔で叫んだ。

「謹んで、お受けします!」
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