ヨルの探偵Ⅱ
あの後、保健室で何してるんだと優介くんに全員が怒られ、男子生徒も「なんで俺も?」とキョトンとしながら怒られていた。
ガミガミ叱られ、しょんぼりしながらまとめて教室に戻れと保健室を追い出されたわけだけど……。
「授業受ける気分じゃなくなった……」
今の時間は数学。
公式なんて一ミリも頭に入ってこなそうだから教室に向かうふりして窓から逃げ出したんだけど、丁度いい日陰が見つからなくて散策中。
あの男子生徒も多分というか絶対教室戻ってない。ほんとにぶっ飛んでた。
アンダーグラウンドにいても不思議じゃないのに、平凡な感じが表に溶け込んでてちょっと羨ましい。
「そういえば、名前なんだったんだろ」
木の影で足を止め、最後まで名前を呼ばずに心の中で男子生徒と呼んでいた彼の顔を思い出す。
見た目は本当に普通。身長も平均。細くも太くもない身体。墨色の癖のない普通の髪に、若干ツリ目の薄茶の瞳。とにかく眠そうで覇気のない目だった。
物事において、全てドライというか……。私と気が合わなくもない相手って感じかな。
「名前、聞いとけばよかった」
学校で使ってる名前も偽名だろうし、聞いても本当の名前は教えてくれないだろうけど、本人に聞いとけば呼び方困らないのにやらかした。
とりあえず、名無しのナナオって呼んどこ。
すとん、とその場に腰を下ろす。
丁度いい日陰が見つからないから、木陰で休んじゃおうと足を伸ばすと足音が聞こえて顔を上げた。
「おやおや、きょんじゃん」
「そのあだ名、可愛くないからやめろ」
「ふふーん。……座れば?」
見下ろしてくる王様に、好戦的に見上げる。
無表情のまま座った恭。肩上くらいまでのミディアムの黒髪がそよそよと風に吹かれて、目元に視線を向けると切れ長な瞳が揺らいでいた。
恭を見てるとなんだろ、心がざわつく。
……それは、居心地のいい感情ではなかった。