ヨルの探偵Ⅱ
不快とまではいかなくても、毒蛇が身体の中を蹂躙して這い回るような気持ち悪さが私を襲う。
恭は人の輪から外れて1人でいることも多く、2人きりになることは珍しくない。でも、誰よりも私と共有してる時間が少ない。
意図的に、彼がそうしてるからだ。
その無意味な自己犠牲と、何も捨てられない慈悲の心が理解できない。私に備わってないから、不気味に感じてしまうだけかもしれないけどね。
「保健室が、何か騒がしかったな」
「いなかったのに知ってるんだ。カオスな修羅場が広がってただけだよ」
「そうか」
どうして知ってるかなんて野暮なことは聞かない。ただこの一言で、恭が保健室の近くにいたのに自らあの場から離れたことだけが伝わった。
いや、逃げたくなるのはわかるけどね。
巻き込まれないためっていうより、翔くんと私の邪魔をしないようにって感じがひしひし伝わる。
うーむ、胸糞悪い。
「よるは、翔が好きか?」
「ふつう」
「じゃあ、俺のことは嫌いか?」
「……」
その質問に、意味はあるのかな?
はらり、カーテンのように恭の目元でゆらゆらと漆黒が揺れる。吸い込まれそうな瞳には、全てを諦めてしまってるような愁いがあった。
そんな恭を、私は作っていた表情をなくして見つめた。
「私は、──……翔くんに似てる?」
「、」
「図星って反応だね」
僅かに目を見開いた恭に、くすりと笑う。
翔くんと私の共通点。それは、出会った当初から薄々気づいていた。私でも気づくようなことを、兄である恭が気づかないわけが無い。
私の欠点はいくつかあるが、目立つのは共感ができないということだ。
もしくは、他人の気持ちをあまり理解できない。
私の〝それ〟と、翔くんの〝それ〟は、とても酷似していた。