ヨルの探偵Ⅱ


 似てる私と翔くんは互いが惹き付けられるように一緒にいることが多い。正反対な恭との時間が少ないのは明白だった。


「2人の溝は、私に関係ないし。勝手に重ねられても困る」

「……悪い」

「共通する部分は多いけど、別物だから」


 しょぼくれる恭に追い討ちをかけて悪いけど、とんだ迷惑だ。

 2人の間に何があったかは知らない。恭は自分に執着してなくて、翔くんとの距離感をはかりかねてる。翔くんも時々酷く諦めた目をする。

 私と翔くんは根本的な中身が似ている。

 そして、私は長女で恭は長男。置かれてる状況が似ている。

 類似してる点は多々あって、私と朝陽の関係がややこしいように、一ノ瀬兄弟もまた何かある。重ねてしまうのは仕方ないけど、意味がない。


「翔くんの考えと似てる私からひとつ言わせてもらうと、諦め癖と正義感は程々に」

「……諦め癖と正義感」


 自分のことを諦める姿勢は、見てて不快。

 正義感はあっぱれだけど、自己犠牲してまでやる必要はない。ましてや、何も捨てられない人にできることなんてひとつもない。

 恭の目元で揺れる黒のカーテンを手で払い、私の非対称な目と交わらせる。


「恭、嫌いかって聞いたよね」

「あぁ」

「嫌いじゃないよ」


 さっきの質問、答えてなかったからね。

 嫌いじゃないと答え私に、恭の真っ暗な海のように暗い瞳が、ぱちりと瞬いた。その瞳には月や星が反射したような輝きがある。

 うーん、こっちのがマシ。

 私が頬を緩めて目を細めれば、息を呑んだ恭がこちらに手を伸ばしてきた。

 その手からわざと逃げるようにして立ち上がる。


「明日、土曜だからみんなで私の家来にて。作戦立てるよって伝えてといて」

「……わかった」


 スカートを軽くはたいて、作った笑顔で恭にそう言った。

 そのまま影から先に出て、恭の視線が背中にあるのに気付かないふりをして太陽に灼かれる。



 嫌いじゃない。

 でもね、

 ────好きでもない。


 歪な笑顔が、私の表情から抜け落ちた。

< 107 / 122 >

この作品をシェア

pagetop