ヨルの探偵Ⅱ


 キスする前に必ず目を閉じるナナくんに、ほんの少し可愛さを感じる。互いに顔を傾けて、唇が合わさった。


「んっ……」

「……」


 好き勝手されるわけでもなく、何回かくっついたり離れたりだけの可愛い子供騙しのキス。

 それでも満足そうだから安いキスだ。目を開けて観察してる私に「……?」と不思議そうなナナくん。

 やってることやばいくせに、眠そうな目で言動がいちいちゆったりとしてるからか子供っぽい。


「……ねぇ、」

「なに?」

「ヨルを独り占めって、できる?」

「したいの?」

「なんか不思議で、近くで見てたいから独り占めした方が早いと思って」


 その理屈は間違ってないけど……。

 ヨルを独り占めしてるのは、残念ながら私の唯一無二。私からの返答をお利口に待つ男子生徒ナナくんに、慈愛に満ちたような微笑みで答えた。


「ヨルの唯一は決まってるから、ごめんね」

「……それは残念」


 本当に残念とか思ってるのか、眠そうな目で見上げてくるナナくんに気が抜ける。

 わしゃわしゃと墨色の髪に指を突っ込んで撫で回すと、「跳ねた」と言いながらいそいそ跳ねた髪を直し始めたから笑ってしまった。

 ちょっと面白いし、夜の探偵に勧誘したいけど……。

 彼は自由にふらふら生きるのが合ってる。


「じゃ、最後にもっかいキスしとこっか?」

「うん」

「舌いれてもいいよ」

「それは勃っちゃうからやめとく」


 正直に言うナナくんに、あんまりがっついてこなかったのは我慢してたのかと感心する。

 暴走しない、いい子だ。

 甘党星人マレくんは見習うべきだと思う。あと暴君龍彦もこういう遠慮の仕方を学べばいいと思う。彼等は私に遠慮がなさすぎる。

 可愛いキスで戯れ、最後ペロッとナナくんの唇を舐めてから私は唇を離した。


「そういうことする」

「うん、しちゃった。ごち」


 意趣返しだ。ほんの少し困ったように見上げてきたナナくんに、私は余韻を残さず距離を取った。

 それから、惜しむことなく手を軽く振って来た道を戻る。






 だから、この後に起きていたことなんて、

 ────私は知る由もなかった。


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