手のひらを太陽に

第21話

 家に帰ってから、私は頭を整理しなければならなかった。2020年の世界に戻った私の記憶は、まだいくつか埋まってない箇所があるジグソーパズルのようにであった。埋まってない箇所に当てはまるのは、タイムスリップした時の記憶であった。
 2020年の世界に戻った私の意志の記憶に、タイムスリップの時の記憶をジグソーパズルのように当てはめた時、霧で曇っていた私の記憶が、一瞬のうちに晴れたようであった。
 両親が、私が高二の時に崖から車ごと落ちて亡くなったという事実は変わっていなかった。私が最初タイムスリップした時点で、両親が家で刃物で心中自殺したということになってしまった。このことが元の事実に修正された。しかし、タイムスリップする前、新聞では事故死とされていたが、私にはその本当の理由が分かっていた。父は事業に失敗して、多額の借金を負うことになり、そのことが両親が自殺した本当の理由であることを私は知っていた。
 それは私がタイムスリップする前に、事実と繋がっていた記憶であった。その時の記憶には確かに生々しい現実との関連がなった。しかし、タイムスリップした時の記憶によって、空白部分を埋められた今の記憶は全く違うものであった。父と母が崖から車ごと落ちて亡くなった。この事実に紐付けされたものが何もなかったのである。父が事業に失敗して多額の借金を負うことになった。この記憶が、私の意志がタイムスリップする前のもので、現在の私の意志の記憶とは無関係であることがわかるのである。家を手放なさなければならなかったことが、未納期間が長かったための借金の多額の利息であった。このことも、現在の私の意志とは無関係であることがわかるのである。
 これはどういうことであるのだろうか。父の事業の失敗、多額の借金、両親が亡くなった後、借金の返済未納期間が長かったため、父が自分にかけた生命保険の保険金と相殺しても、家を手放さなければならなかた。このことが私の現在の記憶とは無関係であることが、わかるのである。タイムスリップで穴ぼこだらけの私の現在の記憶に、タイムスリップの時の記憶が、隙間がないほどにピッタ入りと埋まった時、私の記憶が霧が晴れた時のようにはっきりとしたのである。
 両親が雨の日に車をスリップさせて、崖から車ごと落ちて亡くなってしまった。この事実だけの記憶がリアルなものとして私の記憶の中にあるのである。
 しかし、タイムスリップする前にあった記憶の件について確認しなければならない。でも、どうやって調べたらいいのだろうか。なにからどう手をつけたらいいのだろうか。私には皆目見当がつかなかった。
 しばらく考えているうちに、時田の顔が浮かんだ。彼と話しているうちに、彼が多方面でいろいろなことを知っていると感じることが度々あった。今度仕事が終わった後このことを時田に聞いてみようと思った。

「それは、登記所に行けば大体のことはわかると思うよ」
「登記所ってどこにあるの?」
「登記所は正式名じゃないんだけど、地方法務局の各地域の支局のことだよ。そこに行けば、土地建物の登記簿を閲覧したり、コピーしたりすることができるよ。登記簿には抵当権設定の記録があるので、土地建物に抵当権のあるなしがわかるんだ」
「抵当権が実際どのようなもので、なぜ必要なのか、俺にはさっぱりわからないんだけど」
「土地建物を購入するとき、多額の金額が必要だから、銀行でローンを組むのが普通だろう。銀行はローンを組むときに、土地建物に抵当権を設定するのが普通なんだ」
「初歩的なことで悪いけど、このことで何もわからないから聞くけど、抵当権って何なの?」
「ローンを組んだ人が、失業、ギャンブル、連帯保証人等何かの理由で多重債務者になって、ローンの支払いができなくて、土地建物を手放す状況になって、夜逃げしたとしましょう。その土地建物は当然競売にかけられます。競売にかかられてその建物・土地が売られた時に、その代金を優先的にとれる債券者の優先順位が、登記簿に記載された抵当権設定で確認できるんだ。銀行ローンを組んだ場合、普通、銀行が抵当権設定の第1番目に来るので、銀行がその代金を優先的にとることができるんだ」
「時田、ずいぶん詳しいんだな」
「父親が失業して、家のローンのことでは、いろいろあったから、そのとき覚えたことが沢山あるよ。横川はその時、高二だったんだろう。17歳くらいじゃ、しょうがないよ。その年齢の時だったら、何もわからないのが普通だから。俺はその時学生でも、20歳過ぎていたし、いろいろ世間のことわかるようになった頃だから」
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