Devilの教え
情け無用
「何、スマホの電源切ってんだ」
不機嫌なアスマの声が聞こえたのは、通話を切ってから45分くらい経った頃。
声の方へ顔を向けると、夜の闇の中をこっちへと歩いてくる人影が見える。
「充電なくなったから!」
嘘を口にしながら立ち上がったあたしに近付く人影は、その距離を縮めるにつれ美しき姿を克明に曝す。
「どんだけタイミングよく充電切れんだって話だよなぁ?」
両手はジーパンのポケットに突っ込み、白い薄手のセーターを着るアスマは、気だるそうな歩調で自動販売機の前まで来ると足を止め、ブラックホールの如く何もかもを吸い込んでしまいそうな漆黒の瞳であたしの顔を見下ろして、チラリと足元にある鞄に目を向ける。
――けど。
「金出せ」
まるで何にも気付いてないって素振りで口を開く。