Devilの教え
 だけどあたしは“それ”に気付かない注意力散漫な人間で、「あの子まだ寝てるから、勝手に部屋に入っていいよ」とおばあちゃんに言われて、彼氏の家に入ってしまった。


――玄関にあった女物の靴に気付かなかったのは「運命その五」なのかもしれない。


 気付かなきゃいけないものに気付かないっていう「運命」なんだと思う。


 気付いてたらどう変わってたんだって聞かれても大して変わらないとしか答えられないけど、それでも心の準備だとか、相手への牽制(けんせい)に大声出したりとかは出来たはず。


 だけど全く気が付かなくて、がっつり「そういう運命」に導かれたあたしは、階段を上がって一直線に彼氏の部屋に向かった。


 部屋のドアを開ける直前、一瞬感じた何とも言い表せない落ち着かないような感覚は、思えば「嫌な予感」ってものだったのかもしれない。


 だけどその時は手作りチョコレートの出来栄えに、半端なく浮かれてたから、大してその「嫌な予感」ってものを敏感に感じ取れなかった。
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