元片想いの相手がプロジェクトリーダー!? ──けど、私の心は揺れませんから!
第一話:元片想いだった彼に再会するなんて
目の前に現れたその顔を見た瞬間、時間が止まったような気がした。
「あれ……藤崎?」
懐かしい声。
だけど、学生時代より低く、落ち着いた響きになっている。
七海は固まったまま答えられない。白いシャツの袖を軽く折り返した男は、優しい笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。
「やっぱり藤崎だよな? 久しぶりだなぁ、元気だった?」
まるで昨日の続きのように話しかけてくる彼。片岡陽翔。
七海が大学時代、密かに思いを寄せていた相手だった。
「片岡……くん……?」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
陽翔はその声に気づいた様子もなく、親しげに微笑む。
「やっぱりそうだぁ!いやー、全然変わってないな。……いや、前より綺麗になった?」
冗談めかして言ったその一言が、七海の心をざわつかせる。
だけど、同時に冷静な自分が「これは社交辞令だ」と警告を鳴らす。
七海は必死で動揺を隠し、微笑みを作った。
「驚いた……まさか、同じ会社だったんだね」
「そうなんだよ。俺、マーケティング部なんだけど、今回のプロジェクトで営業部と組むことになってさ。まさか藤崎がいるとは思わなかったけどね」
「そっか……」
七海はなんとなく視線をそらし、そっけない態度を取ろうとしていた。
社会人として違和感がない程度に話を合わせながらも、頭の中はかなり混乱していた。
当然だ、数年前の失恋の痛みが、蘇るどころか目の前に立っているのだ。
陽翔はその空気に気づかないのか、軽い調子で続けた。
「実はこのプロジェクト、俺がリーダーやることになったんだ。だからこれからよろしくな、藤崎!」
リーダー。
つまり、仕事のパートナーとしてこれから頻繁に顔を合わせることになるということだ。
七海は、微笑みを保ったまま心の中で深いため息をついた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言った七海の声には、微妙な感情が混じっていた。
懐かしさ、動揺、そしてほんの少しの恐れ。
だけど、陽翔にはそれが伝わらなかったのか、彼は気軽に手を振りながら去っていった。
その背中を見送りながら、七海は深く息を吐く。
「……まさか陽翔に、今さら会うなんて」
胸に残るのは懐かしい痛み。
だけど、それだけではなかった。
陽翔の姿には、どこかかつての明るさが薄れているような気がした。
その理由を考える暇もなく、七海の肩を軽く叩く者がいた。
振り向くと、冷たい表情の篠田翔平が立っている。
「藤崎、君に任せた案件の準備は進んでいるのか?」
上司である篠田は、まるで今のやり取りなど見ていなかったかのように、淡々とした口調で話しかけてきた。
七海はすぐにスイッチを切り替える。
「はい、もうすぐ資料がまとまりそうです」
「そうか。片岡のプロジェクトは重要案件だ。君の頑張り次第でチーム全体の評価が決まる。……気を抜くなよ」
篠田の冷徹な視線を受けながら、七海は「はい」と力なく答えた。
その言葉にはプレッシャーが込められている。だが、篠田が言いたかったのはそれだけではないようだった。
「それと、あまり私情を仕事に持ち込むな。……特に過去の知り合いが相手なら」
一瞬、息が止まった。
篠田は何も見ていないようで、全てを見透かしている。その冷たい言葉に、七海は心がざわついた。
どこまで悟られたのだろうか、もしかして表情に出てたとか?気が気ではなかった。
「別に、私は私情なんて……」
言い訳を返そうとしたが、篠田はそれ以上何も言わずに去っていった。
七海は再び一人になり、陽翔の明るい笑顔と、篠田の冷ややかな視線を交互に思い出していた。
ここから何かが始まる。
そんな予感が、七海の胸の中で小さな火種となって燃え始めていた。
―でも、それがどんな結末を迎えるのかは、このとき誰にも分からなかった。
「あれ……藤崎?」
懐かしい声。
だけど、学生時代より低く、落ち着いた響きになっている。
七海は固まったまま答えられない。白いシャツの袖を軽く折り返した男は、優しい笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。
「やっぱり藤崎だよな? 久しぶりだなぁ、元気だった?」
まるで昨日の続きのように話しかけてくる彼。片岡陽翔。
七海が大学時代、密かに思いを寄せていた相手だった。
「片岡……くん……?」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
陽翔はその声に気づいた様子もなく、親しげに微笑む。
「やっぱりそうだぁ!いやー、全然変わってないな。……いや、前より綺麗になった?」
冗談めかして言ったその一言が、七海の心をざわつかせる。
だけど、同時に冷静な自分が「これは社交辞令だ」と警告を鳴らす。
七海は必死で動揺を隠し、微笑みを作った。
「驚いた……まさか、同じ会社だったんだね」
「そうなんだよ。俺、マーケティング部なんだけど、今回のプロジェクトで営業部と組むことになってさ。まさか藤崎がいるとは思わなかったけどね」
「そっか……」
七海はなんとなく視線をそらし、そっけない態度を取ろうとしていた。
社会人として違和感がない程度に話を合わせながらも、頭の中はかなり混乱していた。
当然だ、数年前の失恋の痛みが、蘇るどころか目の前に立っているのだ。
陽翔はその空気に気づかないのか、軽い調子で続けた。
「実はこのプロジェクト、俺がリーダーやることになったんだ。だからこれからよろしくな、藤崎!」
リーダー。
つまり、仕事のパートナーとしてこれから頻繁に顔を合わせることになるということだ。
七海は、微笑みを保ったまま心の中で深いため息をついた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言った七海の声には、微妙な感情が混じっていた。
懐かしさ、動揺、そしてほんの少しの恐れ。
だけど、陽翔にはそれが伝わらなかったのか、彼は気軽に手を振りながら去っていった。
その背中を見送りながら、七海は深く息を吐く。
「……まさか陽翔に、今さら会うなんて」
胸に残るのは懐かしい痛み。
だけど、それだけではなかった。
陽翔の姿には、どこかかつての明るさが薄れているような気がした。
その理由を考える暇もなく、七海の肩を軽く叩く者がいた。
振り向くと、冷たい表情の篠田翔平が立っている。
「藤崎、君に任せた案件の準備は進んでいるのか?」
上司である篠田は、まるで今のやり取りなど見ていなかったかのように、淡々とした口調で話しかけてきた。
七海はすぐにスイッチを切り替える。
「はい、もうすぐ資料がまとまりそうです」
「そうか。片岡のプロジェクトは重要案件だ。君の頑張り次第でチーム全体の評価が決まる。……気を抜くなよ」
篠田の冷徹な視線を受けながら、七海は「はい」と力なく答えた。
その言葉にはプレッシャーが込められている。だが、篠田が言いたかったのはそれだけではないようだった。
「それと、あまり私情を仕事に持ち込むな。……特に過去の知り合いが相手なら」
一瞬、息が止まった。
篠田は何も見ていないようで、全てを見透かしている。その冷たい言葉に、七海は心がざわついた。
どこまで悟られたのだろうか、もしかして表情に出てたとか?気が気ではなかった。
「別に、私は私情なんて……」
言い訳を返そうとしたが、篠田はそれ以上何も言わずに去っていった。
七海は再び一人になり、陽翔の明るい笑顔と、篠田の冷ややかな視線を交互に思い出していた。
ここから何かが始まる。
そんな予感が、七海の胸の中で小さな火種となって燃え始めていた。
―でも、それがどんな結末を迎えるのかは、このとき誰にも分からなかった。