俺の変わり果てた気持ちは、君にいつ伝わりますか。
1.俺の可愛い幼なじみ
俺には、それはそれは可愛い幼なじみがいる。
もう幼なじみなんて関係だけじゃ我慢ならなくなってきている。
はやく、俺の気持ちに気づけ。
蒼空side
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なんて、そんなのは無理なわけで。
小さな肩を揺らしながら隣を歩く幼なじみには、多数の視線が向けられている。
「蒼空くん、大注目されてるよ!こーんなに大きいもんね、えへへ」
なんて俺の頭に向かって手を挙げてる小さき彼女は、片桐 寿羽(カタギリ コトハ)。
幼なじみで、物心ついた時から恋をしている。
確かに俺は180cmくらいあるので背は高い方だが、間違いなく注目されているのは寿羽の方で
もちろんその視線は男が大半だが、女でも見惚れる人がいるほどだ。
なんてったって、この可愛さに。
「そうだね。寿羽、帰りも迎えに行くから教室にいててね」
約束ね、と念を押す。
「わかった!」
寿羽の教室の前までしっかりと送り届けるが、不安で仕方がない。
「おっ、今日もダーリンに送ってもらっちゃって〜」
寿羽と同じクラスの浅野と佐竹が茶化しにくる。
「だーりん?蒼空くんは幼なじみだよ」
おはようー!まなちゃんゆなちゃん!と惜しみないとびきりの笑顔で駆け寄って、
大きめのお目目をぱちくりさせる。
「榊も大変ね〜ピュア天然天使ちゃんが相手なんて」
「え、蒼空くん何が大変なの」
ぴゅあ天然?天使?とぶつぶつ言っている。
「浅野、余計なこと言うな。佐竹は視線がうるさい。
んじゃ、寿羽帰りにな」
階の違う自分の教室に向かった。
「あ、うん!後でね〜」
無自覚な可愛さにため息をついた。
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HRが終わり、寿羽を迎えに来たのだが
いない。
「浅野、寿羽どこ」
「そういえば、さっき倉本と話してたんだけど」
「は」
「多分、科学準備室じゃないかな。2人とも今日の日直だし、明日の朝返す用に課題の返却、取りに行ってるんだと思うわよ」
さんきゅ浅野。
言うと同時に、急いで科学準備室の方へ向かう。
相変わらず心配性保護者だねなんて言われたけど、
こういう嫌な予感って、大体当たる……
ほら。
わざと音を大きく立ててドアを開ける
「なにしてんの」
男が髪に触れていた手を止める。
寿羽だって、なんでそんな簡単に触らせてんのって。
不機嫌そうな倉本と、なんでここにいるのという状況をわかっていない寿羽がこちらを向いている。
「倉本、寿羽から離れてくんない」
イライラして
2人に近づき、寿羽の腕を掴んで引き寄せる。
「えっと、蒼空くん怒ってる?」
寿羽の質問には答えない。
「寿羽は、俺のだから」
腕を掴む手に力が入る。
「榊と寿羽ちゃんって付き合ってないんだよね」
そんなことはわかっている。
「付き合ってない」
でもそんなことは今に始まったことではない。
「幼なじみだけど。それが何か」
溢れ出る嫌悪感を隠さずぶつける。
ただの幼なじみのくせに……と続けようとする倉本の言葉をさえぎった。
「もうお前と話したいことはない」
寿羽の手を引いて、廊下へ向かう。
あ、と振り返って言う。
これくらいのノート、お前一人で教室まで運べるよな?
「別にもともと寿羽ちゃんに持たせるつもりなんてなかったし」
それ聞いて安心した。
んじゃ、と言って教室に戻った。
寿羽が仕事をさぼったなんて言わせない、あくまで俺が勝手に連れ出したんだから。
えっと、あの、
未だに手を引かれている寿羽がオロオロしている。
こんな状況にもかかわらず可愛すぎる。
でも、
「もっと、危機感持ってくれない?2人きりなんてダメに決まってるでしょ」
えっと、とまだ何に怒られているか分かっていない様子。
「ごめんね、蒼空くん」
目がうるうるし出すと、これ以上何も言えなくなる。
泣かせたいわけじゃない。
「ううん、寿羽は悪くないからね」
頭を優しく撫でる。
「蒼空くんに撫でられるのすき」
目を細める寿羽が可愛すぎてこちらが耐えきれなくなったので止めた。
「帰ろっか。コンビニでアイスでも買って食べよう」
瞳のうるうるさはなくなり、寿羽の顔がぱあっと明るくなる。
アイスアイス〜♪と嬉しそうに俺の手を引いている。
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「蒼空くん、蒼空くんって好きな人いる?」
飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。
寿羽だよと言いかけて、飲み込む。
「ど、どしたの急に」
それがねーと小さい口が動いていく。
「この間、友達と恋バナしてたんだけどね。そういえば私、恋したことないなと思って」
胸に手を当てて一生懸命話す幼なじみが愛おしい。
「好きな人がいるってどんなんだろうって思ったの」
なるほど。
つまり、今のところ好きな人ができたことがないってことだ。
もちろん、俺にも恋愛的な感情を抱いたことがない……ってことになる。
「うーん、誰にも渡したくないなって思うよ」
寿羽のことを考えながら言った。
「渡したくなくなるんだ」
なんて俺の目を見て嬉しそうに言うもんだから、ドキリとした。
そして彼女は、少しスキップのようなリズムで進みながら独り言のように呟いた。
「恋、してみたいなあ」
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「どした蒼空。そんな神妙な顔をしてさ」
さすが中学からの親友、中島 陽斗(ナカシマ ハルト)は気づくのが早い。
「さては、寿羽ちゃん関係っしょ」
そして感も鋭い。
「まあそうなんだけど」
ニヤニヤした顔で見られると一層相談がしにくくなる。
「恋をしてみたい」
相談するかしないか迷いながら口を開いたせいで、変なところで止めてしまった。
「ん」
何言ってんだこいつって顔をされる。
「してんじゃん、紛れもない寿羽ちゃんに」
観念するかあ……
「いやそうじゃなくて、寿羽が、恋をしてみたいって言い出したんだ」
でも俺の焦りを他所に、
陽斗は急に表情が明るくなって、背中を思いっきり叩いてきた。
「え、よかったじゃん!お前、やっと進展の見込み出てきたんじゃねえの」
いやいや待て待て
「よくねえ」
全然よくねえ
「その恋する先が、俺じゃなかったらどうすんだ。あんなこと言い出すってことは、今までに一度も俺に対する恋愛感情を抱いたことがないってことだろ」
「お前、ほんとに寿羽ちゃんのことになると慎重になるよなあ」
分かってないなあという顔をされる。
「男なら真正面からぶつかってけよ」
そうだった、陽斗は脳筋野郎だ。
典型的な「当たって砕けろ」タイプだった。
これでさらにモテてしまうから、なんというか、素直に羨ましい。
「いやいや、これ以上の降格は耐えられねえよ……」
幼なじみ以下になるのは、さすがに無理だ。
俺にとっては、敗れた時の代償がでかすぎる。
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幼い頃から、俺と寿羽は一緒だった。
生まれた病院が同じで、偶然家も近かったため、親同士がとても仲良がいいのだ。
今ではだいぶマシになったのだが、幼い頃の寿羽はすぐに泣く泣き虫だった。
「うわあああんそらくん」
そして何か嫌なことがあった時は、いつも俺のところに来る。
「どうしたの寿羽」
泣きながらも一生懸命に話そうとする姿が、幼いながらにも可愛いなと思っていた。
「く、クマさんのキーホルダーが、なくなっちゃったの」
いつも出かける時に使う肩掛けカバンを掛けていた。どこかへ出かけていたのだろう。
「どこ行ってたの?」
「桜ヶ丘公園……」
「その公園か、途中の道に落ちてるかもしれないね。一緒に探しに行こう」
迷いなく寿羽の右手を取って歩き出した。
公園の前の横断歩道の脇、花壇を縁どるレンガの上にクマのキーホルダーが置かれていた。
「きっと誰かが拾って、置いていてくれたんだね」
はい、と渡すと
もうなくさない!と大事そうにカバンにしまっていた。
「そらくん、公園行こうよ」
さっき行ったんじゃないの?って聞くと
「行ったけどね、一緒に見たいの!」
信号が青に変わると同時に俺の左手を引っ張ってくれる。
「おおー」
桜ヶ丘公園は、名前の通り桜がたくさん植えられており
この日は、本当に見事に満開の桜だった。
少しヒラヒラと舞う花びらがよりピンクの世界を広げていて
綺麗だった。
「そらくん、ありがとう」
桜に負けないくらい可愛い笑顔を向けられる。
この瞬間、
目の前の寿羽に抱く、好きという気持ちに気づいた。
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中学生になった途端、寿羽はモテまくるようになった。
というよりも、寿羽の可愛さに気づくやつが増えてきたんだ。
最初は、可愛いだろ俺の幼なじみ!くらいにしか思っていなかった。
でもあの日……
「ねえ蒼空くん、今日ね、下駄箱にお手紙が入ってたの」
「手紙…?」
俺はすぐに気がついた。
お手紙なんて可愛いもんじゃない、これはラブレターだ。
ほらと見せられた手紙には、案の定
『可愛い寿羽ちゃんが好きです。付き合ってください』
と書かれていた。
「どうしよう」
なんて聞いてくるもんだから、焦った。
そして、狡い俺は意地悪なことを言った。
「もしそいつと付き合うなら、もう俺とは仲良くできなくなるね」
まだ恋をしていない寿羽は、幼なじみの俺を選んでくれるという確信があった。
「え!そんなの寿羽嫌だ!」
せっかくお手紙もらったから嬉しかったけど…中島くんにありがとうとごめんなさい、ちゃんと伝えるね
なんて、純粋で真面目で
蒼空くんと幼なじみ辞めるなんてできないよって真剣に言う彼女が可愛くって仕方がなかった。
初回のラブレター事件は、こんな狡い方法で切り抜けた。
ホッとした俺は同時に覚悟した。
これからは、毎日のように告白される可能性があると。
そしてその度になんとしてでも阻止しなければならないということを。
のらりくらり、寿羽が受ける告白を阻止しているうちに
「あんなに可愛い寿羽ちゃんに彼氏ができないなんておかしい!」と言うやつが出始め、
その原因が、365日送り迎えをかかさないまるでガードマンのような存在である俺のせいだと噂されるようになった。
いつしか俺は、天使の番犬なんて呼ばれるようになった。
まあこれで寿羽に近づくやつがいなくなるなら悪くない。
実際に、告白するやつは激減した。
「んじゃ、また放課後に迎えに来るから教室にいててね」
朝、いつも通り、寿羽を教室まで送っていた。
自分の教室に向かおうとした俺のブレザーの裾が引かれる。
「あの、蒼空くん。私ね、今日ちょっと、その…用事があって」
言いにくそうにモジモジしているのも可愛い。
「ん、どうしたの」
可愛いけど、
「放課後にね、約束してて…」
非常に嫌な予感が、
だからまた意地悪してしまう。
それって、
「俺と帰るよりも大事なの?」
えっと…と言葉が詰まる寿羽。
困った顔ですら可愛いと思ってしまうのは、たぶんかなりの重症だ。
「えっとね、もちろん蒼空くんと帰りたいんだけど……内緒の約束なの!」
なにそれ、ますます怪しいじゃん。
なんだかんだ、俺と帰る方を選んでくれるかもって思ったのに
寿羽は真面目だ。約束は守るタイプだから、きっと内緒なら俺にも教えてはくれない。
「ふーん、じゃあ好きにすれば?」
いつもより冷たくしてしまう。
瞳に涙が溜まるのを見るのは耐えられないので、まともに顔を見る前に寿羽の教室を離れた。
寿羽side
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昨日の昼休み、倉本くんにお願いをされました。
「今日も髪型、かわいいね」
似合ってると、いつも変化を褒めてくれる。
「ありがとう」
と微笑み返すと、
彼の顔がほんのり赤くなった気が…気のせいかな。
「明日、放課後時間ある?」
「倉本くん、部活じゃないの?」
うちの高校は帰宅部が多いが、倉本くんはサッカー部であることを知っていた。
「明日はオフなんだ」
「それでさ、明日ちょっと他の人には内緒で手伝ってほしいことがあるんだけど…ダメかな?」
いつになく倉本は真剣です。
手伝ってあげたい…けど、放課後はいつも蒼空くんと帰ることになっているので絶対怪しまれる。
でも、せっかく頼んでくれたんだから…
「いいよ!手伝う!」
ということで、
今日もいつも通り、教室まで送ってくれる蒼空くんは本当に優しい。
「んじゃ、また放課後に迎えに来るから教室にいててね」
自分の教室に向かおうとした蒼空くんのブレザーの裾を慌てて引く。
「あの、蒼空くん。私ね、今日ちょっと、その…用事があって」
内緒だから、言えないけど帰れないことを伝えなければ…!
「ん、どうしたの」
蒼空くん、優しいからきっとわかってくれるはず…
「放課後にね、約束してて…」
と思ったのに、目の前の幼なじみの表情は分かりやすく不機嫌になっていってしまう
どう説明しようか悩んでいると、蒼空くんは意地悪な質問をしてきた。
それって、
「俺と帰るよりも大事なの?」
えっと…と言葉が詰まる。
この顔は意地悪モードの蒼空くんだ…!
「えっとね、もちろん蒼空くんと帰りたいんだけど……内緒の約束なの!」
私も蒼空くんと帰りたいよ。でもね、約束だから!
ここで折れちゃいけない!
勇気を出して言ったのに
「ふーん、じゃあ好きにすれば?」
いつもより冷たく言い放つ蒼空くんになんだか悲しくなってしまう。
何も言えないのに、代わりに瞳に涙が溜まっていくのがわかる。
歪んだ視界に蒼空くんの離れていく背中が映っていた。
「まなちゃんゆなちゃん!!!!」
教室に入ってすぐ、2人が話している席に飛んで行った。
「どうしたのうちらの可愛い寿羽〜!そんな可愛い顔で泣かないの」
まなちゃんこと、浅野 真奈(アサノ マナ)ちゃんと
ゆなちゃんこと、佐竹 由奈(サタケ ユナ)ちゃんは同じクラスで一番仲のいい友達。
まなちゃんは弟が3人もいるらしく、面倒見がよいお姉ちゃん的存在。
ゆなちゃんはふわふわして見えるけど大人な一面もある、成績優秀な優等生。
よしよしとゆなちゃんは頭を撫でてくれる。
「んで、どうしたのさ。ダーリンと喧嘩なんて珍しいじゃん」
なかなか言い出さない私に、まなちゃんは話を促してくれる。
どうやら一部始終を見られていたようで、
「あのね、今日の放課後に倉本くんと約束してて帰れないことを伝えたら、なんだか蒼空くんが冷たくなっちゃって」
さっきの出来事を思い出すだけでまた涙が溢れそうになる。
「私、何がダメだったんだろう……」
天使の涙だ…なんて2人は言っているけどよくわからない。
「しかも、誰とに関しては言ってないんじゃないの」
こりゃあ、約束相手が倉本だってバレたら怒り爆発だろうねーなんて言われてしまって
「どうしたらいいのかな」
「まあ、たまにはいいんじゃない?番犬も、守りばっかじゃなくて攻めも大事なんだって学ぶべきよ」
ね、ゆなもそう思うっしょ!と力説している。
「まなちゃん厳しいなあ、まあ確かにそろそろ素直になればいいのにとは思うけども」
うーんとゆなちゃんまで真剣モード。
「でしょう。なんなら、倉本次第みたいなもんだし!」
なんだか、2人の話が盛り上がってきています。
「とにかく!一旦様子見ね」
だそうです。
よく分からないし悲しい気持ちが消えない私は、力なく頷いた。
蒼空side
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HR中、気持ちは上の空だった。
朝からずっと、寿羽の『約束』について考えを巡らせていた。
そういえば、約束の相手って誰なんだ……やっぱり男か?
仲のいい浅野や佐竹がそんな変な約束をするわけがない…と思う。
あの2人は、寿羽への俺の異常な心配性を知っているから。
しかもおそらく、俺の気持ちも察していると思う。
というか、こんだけアピールしても察してくれない寿羽は本当に罪なやつだと思う。
いつになったらこの気持ちが伝わってくれるんだろうか…。
放課後、大人しく帰れるわけもなく教室に残っていた。
「蒼空が残ってんの珍しー!寿羽ちゃんは?」
「下で呼ぶな」
こいつ絶対わざとだ。
「はいはい、片桐ちゃんね」
で、どうしたのさ
と陽斗はニヤニヤしながら聞いてくる
「どうしたもこうしたも……」
こいつの質問に素直に答えるのも癪で
窓の外を見た
「あ」
渡り廊下を誰かと歩くのは間違いなく寿羽だ。
「片桐ちゃんじゃん。男子と歩いてるの珍しいな」
「陽斗、顔がうるさい」
ここぞとばかりにニヤニヤした顔を向けてくる。
「そんなことより、止めに行かなくていいのかよ」
言われなくても分かってる。
もし、行ってウザがられたら?
今更かもしれないけど、嫌われたらどうする?
「あの時みたく、狡い手使ってでもさ」
絶対手放さないんだろって
「あーもうムカつく」
ガタッ
勢いよく席を立ち、教室を出た。
陽斗side
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本気なんだろな、なんて改めて思った。
焦れったいなあ、早く告って付き合えばいいのに、
なんてあいつに言っても聞く耳持たないんだろうけどさ
走っていく親友の背中を見ながら思い出した。
俺たちが初めて出会った日のことを。
俺は中学2年の時、片桐 寿羽に一目惚れをした。
そして、行動派な俺は迷わず告白しようとした。
ベタだけど、ラブレターを寿羽ちゃんの下駄箱に入れた。
当時の俺はドキドキしていた。なんせ、ちゃんと告白するのは初めてだったから。
翌日、俺の下駄箱に手紙が入っていた。
淡いピンクの便箋に可愛らしい字がよく似合っていた。
『中島くんへ
お手紙ありがとう。とても嬉しかった。
でも、ごめんなさい。お付き合いはできないです。
まだ、蒼空くんと幼なじみでいたいからです。
もしよかったら、お友達になれたら嬉しいな。
片桐 寿羽より』
この振られた理由で受けた衝撃は今でも忘れていない。
(蒼空くん…?幼なじみのために振られたってことかよ)
これを読んで、昼休みこいつを呼び出した
手紙に書かれていた“榊 蒼空”ってやつを。
「おい、榊ってやつちょっと来い」
隣のクラスで呼び出すと、
超絶不機嫌な顔のあいつが来た。
「なに」
俺は用ないんだけど
と言いたげな顔をしている
少し静かな階段の踊り場に移動し、話を再開した
「俺、片桐 寿羽ちゃんに告白したんだけど」
様子を伺うが、あいつは表情1つ変えない
「それがなに」
「お前ら幼なじみなんだよな」
「そうだけど」
「じゃあ、俺が寿羽ちゃんと付き合おうが付き合わまいが関係なくね?
お前が、止めたんだよな」
俺には確信があった。
片桐 寿羽は真面目だから、書いていた理由は嘘偽りないはず
じゃあ、
『まだ、蒼空くんと幼なじみでいたいからです』
なんて、
「付き合うなら幼なじみの俺と縁を切れ」と言われたと
言っているようなもんじゃないのか
「……」
黙りこくるわりには
若干、バツの悪そうな表情をするもんだから
おかしくなった。
そして、純粋に気になった。
「お前は、告らねえの?」
こいつ、絶対片桐 寿羽のことが好きだろ。
そんなにも想っているなら、伝えればいいのに。
「っ、」
「お前おもろいな。告らないくせに、取られたくないって?」
もちろん片桐 寿羽が好きなのは本当だったが
それ以上に、目の前の榊 蒼空という人間に興味が湧いた。
「別にいいだろ」
この話を早く終わらせたい気持ちが見え見えだ。
「まあな。
俺、応援するわ。お前のこと」
気づいたらそんなことを言っていた。
「振られた俺のためにも寿羽ちゃんと結ばれろよ」
「名前……」
「ん」
「下で呼ぶな」
ぶっ
「おもしれーお前ほんとに腹いてえ」
この時、本気で笑った
そして、こいつの独占欲の強さを知った。
「はいはい、片桐ちゃんね」
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あれから2年以上経っているのに何も進展していない、あいつらは本当に見てて飽きない。
俺はと言うと、もう未練なんかなくて
そんなことよりも、蒼空と親友である今の関係が心地よかった