その愛を喩える言葉を知らない
「うん⋯⋯ごめん。やっぱり今年も帰れない。え?そんなんじゃないって!だから心配しないで。盆暮れ正月は、繁忙期で休みにくいのよ。本当にごめんね」
 そっと受話器を置くと、ベッドの中で重い溜息をついた。
 生まれ育った場所も寒さが厳しかったが、こちらの冬は、種類の違う寒さだ。
 かなり古いだけでなく、一人で暮らすには広すぎるこの家は、暖房もあまり効かないので、冬はベッドで過ごす時間が長くなる。
 母のことは唯一の気がかりだし、会いたいとも思う。
 それでも、私は仕事を言い訳にして、今年の年末年始も帰省はしないことに決めた。
 あれからもう1年以上経つのに、どうしても、そんな気にはなれない⋯⋯。
 孤独な生活にも、少しは慣れたつもりだ。
 しかし、母と電話で話したあとで寂しくなってしまうのは、やはりまだ孤独に慣れたとは言い切れない証拠だろうか。
< 1 / 4 >

この作品をシェア

pagetop