その愛を喩える言葉を知らない
 電車に乗り込んだあとは、ぼんやりと、流れる景色を見ていた。
 市街地が近づくにつれ、乗客も増えて混雑してくるが、私が乗る時点では、人もまばらだ。
 終点で下車し、そこから徒歩圏内の大きな郵便局が、今の私の職場。
 裏方業務ということもあり、職場の人との会話というと、挨拶と業務上必要最低限のことだけ。
 他の人たちも、雑談などせずに黙々と仕事だけしていたいような雰囲気なので、私にしてみれば好都合だ。
 今の時期、仕事が終わる頃はもう真っ暗だ。
 雑踏の中を足早に駅まで向かい、そのまま下りの電車に乗る。文庫本を読んでいると、意外とすぐに最寄り駅に着く。
 いつもと同じで、他にここで降りる客は居ない。小さな駅舎に明かりがついていることに、何故かホッとし、改札に向かう。
「今日もお疲れ様です。もう暗いですから、気をつけてお帰りくださいね」
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